皇族の「公務」に法律的な根拠は存在しない

次に、天皇以外の皇族の仕事はどうでしょうか。

皇族は、場合に応じて摂政や皇室会議の構成員などになることがあり、皇室典範など関係法令にその定めがあります。

ただ、これらはあくまでも必要な事情があるときに限って活動するもので、日常的に行われる仕事ではありませんので、ここでは立ち入りません。

意外に思われるかもしれませんが、皇族の仕事について一般的に定めた法令はありません。例えば全国植樹祭やスポーツ大会などに皇族が出席して挨拶を述べたりする「公務」は、憲法にも法律にも根拠がないのです。

宮中祭祀は公務ではなく私的行為

整理すると、皇室の仕事としては、①天皇の国事行為、②天皇(と皇族)のその他の公務(公的行為)、というふうに分けることができます。

念のためいうと、映画や歌舞伎を見に行ったりテニスやスケートをやったりするのは、食事や睡眠と同じであくまでも私的行為です。

「皇族は常に公人であり、私的に映画や歌舞伎を見に行くのも公務のうちだ」という理屈は成り立たないことに注意してください。

食事や睡眠が公務でないのと同じように、映画や歌舞伎の鑑賞も公務ではありません。

ちなみに神社やお寺にお参りしたり、皇霊祭などの宮中祭祀を行ったりするのも(誤解されがちですが)あくまで私的行為です。

2012年10月4日、明治神宮
写真=iStock.com/aluxum
※写真はイメージです

日本は政教分離の国家であって神道国家ではないので、皇室とはいえ、特定の宗教行事や参拝行為を「公務」と位置付けることはできないのです。

「天皇の国事行為」は形式的なものなのか

このうち①の天皇の国事行為は、先ほど述べたように政治的判断は行うことができないので、単なる儀礼や形式だけです。

実質的影響が何もない行為のようにも思えるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。これはケース・バイ・ケースで確認する必要があります。

例えば内閣総理大臣の任命は、国会が指名の決議をした時点で既に誰を任命すべきか決まっています。

誰もが知っているとおり、天皇が勝手に自分の判断で内閣総理大臣を選んで決めることはありません。仮に何かの理由で天皇の任命がなかったとしても、国会が決めたからには内閣総理大臣は内閣総理大臣です。

その意味では、確かに天皇の国事行為は形式だけと言えなくもないでしょう。