顔情報の収集とプライバシー
すでに顔認識システムを採用している先進国の動向をまとめると、次のようなことがわかる。
①顔認識技術が個人情報保護の観点から規制されていること
②顔情報の収集に対して、監督・調査・評価権限を持った独立した機関やメカニズムが存在していること
③顔認識技術の内容や収集利用の目的・方法、収集されているデータの性質などが外部から評価されていること
④顔情報収集に伴うプライバシー保護法令の遵守状態や、侵害の危険性などのリスク評価がされていること
⑤顔情報収集の体制や手続の妥当性を審査する事前規制と収集活動を監督する事後規制が推奨されていること
日本は個人の情報をコントロールする権利作りが遅れている
では日本で今後、顔認識技術を公共空間で利用するにあたりどのような仕組みを作っておけばよいのか。
第一は、顔情報収集段階の同意・承諾プロセスだ。指紋やDNAとは違って顔情報は知らないまま容易に収集することができる。公共空間での識別時だけではなく、元データの顔情報収集の場合にも必要だ。どんな目的に使われるかも知らないままに自身の顔情報がデータベースの一つのピースになることを選ぶかどうか、情報を取得される個人が決定権を持つべきだ。
第二は、顔情報認識技術の利用目的や利用方法を公表し、第三者の評価を仰ぐことだ。説明責任を果たしていない限りこうした技術の利用は許されないとしておくべきだ。
第三は、第三者による評価を個別のシステムや設置場所ごとに用意することはコスト的に割に合わない。独立した中立的で技術に通じた全国的な審査機関を設けて、顔認識技術の公共空間利用について、用いられるアルゴリズムの正確性や利用目的について事前チェックを行い、運用実態に対しても検証が不可欠だ。
AIについて憲法学の立場から発信を続ける慶應義塾大学の山本龍彦教授は、個人が自身の情報をコントロールする権利を保障できるような制度作りが日本で遅れている点を指摘している。そうした権利を「情報自己決定権」と言い、その確立が急務である。こうした権利から出発することで、顔情報の利用について包括的な規制の枠組みを構築していくことが望ましいだろう。