カゴメ社員がコネなしで「世界一速い男」を訪ねてケニアへ
現在はさまざまなエージェントがいるが、近年、その存在感が際立っているのは、「株式会社ChiMa Sports Promotion Japan」で代表を務める柳田主税さん(37)だろう。
10月10日の出雲駅伝で東京国際大を初優勝に導き、箱根駅伝2区と3区の区間記録保持者でもあるイェゴン・ヴィンセント(東京国際大)を筆頭に10人の留学生ランナーを柳田さんは自社を通じて日本のチームに送り込んでいる。
実は柳田さんはかつて大手食品メーカー・カゴメの社員だった。そこからどのようにケニア人留学生のエージェントになったのか。驚きの転職ストーリーとケニア人留学生のキャリアを考えた新戦略を紹介しよう。
海外で仕事をしたい、という目標を持っていた柳田さんは大学卒業後、カゴメに入社。フルマラソンを2時間30分ほどで走るトップクラスの市民ランナーであったこともあり、海外駐在員としてインドにいた頃、世界的な長距離ランナーを量産するケニアに行きたくなったという。陸上関係の仕事をしよう、という思いがあったわけではなく、純粋な好奇心だった。
「本物を知らないと判断基準ができません。一番は世界で最も速い人の生活を近いところで見てみたいと思ったんです。世界で一番速い人はどんな練習をして、何を食べて、どんな生活をしているのか。また今後アフリカでフードサービスのビジネスをするとなったときにどんなチャンスがあるのか。食品メーカーの営業マンとしての視点もありました」
約束の時間より6時間遅れて…キプサングはレストランに現れた
柳田さんは2013年の12月ごろに、休暇を利用して、ケニア・イテンへ飛び立った。イテンにはいくつものキャンプ(長距離チーム)があり、世界トップクラスの選手たちが練習拠点にしている「マラソンの聖地」と呼ばれる特別な場所だ。
現地でリサーチすると、「キプサングが一番成功しているランナー」という声が強かったという。キプサングとは、ロンドン、ベルリン、東京などのメジャー大会を制した元男子マラソン世界記録保持者であるウィルソン・キプサングのことだ。「その人に会えば世界で一番速い人に会ったことになる」と思った柳田さんは、思い切った行動をとる。キプサングが経営しているホテルに宿泊して、本人が登場するのをひたすら待ち続けたのだ。
「書類チェックなどがあるため経営者キプサングは毎日ホテルにやってくるという話をスタッフから聞きました。スタッフに会いたいことを告げると、幸いアポがとれたんです。当日、レストランで待っていると、約束の時間から6時間後、本人に会えました(笑)」
よく考えてみると、全く知らない外国人に「会いたい、待っている」と言われたキプサングも怖かっただろう。しかし、柳田さんはひとつの突破口を開いたことで、新たな人生が始まることになる。
柳田さんは世界各地のレースに出場するキプサングと親交を深め、多くのケニア人ランナーとも交流が生まれた。福岡国際マラソンなど国内レースに出場するケニア人選手をサポートするようになると、2015年にカゴメを退社。その後、ケニアでネットワークを作り、2018年に現地で会社を立ち上げた。