U20のジュニア選手を育成して、日本へ送り込む

ケニア人留学生を召集する場合、現地のエージェントが数人の選手を選び、日本のチームに紹介。そのなかから1人を採用するというパターンが多い。柳田さんもこれとほぼ同じ方式だったが、現地で、ある画期的なシステムを作り出した。スポーツと教育を無償でサポートするU20のキャンプ(長距離チーム)を作ったのだ。

20歳未満というのがポイントだ。ケニアのキャンプはシニア選手がメインになるため、現地のエージェントが日本の高校・大学に選手を紹介するのは簡単ではない。しかし、柳田さんが運営するキャンプにはセレクションを通過した15~18歳の有能なランナーが40人ほどいて、プラスして19歳以上の選手も20人ほど所属しているのだ。

元カゴメ社員の柳田さんが代表を務める「ChiMa Sports Promotion Japan」
写真提供=柳田主税
元カゴメ社員の柳田さんが代表を務める「ChiMa Sports Promotion Japan」

「実業団チームは駅伝で確実に活躍できる選手を獲得したいので、近年はマネジメント会社と契約をしている選手に声をかけるケースが多いと思います。でも、高校・大学の場合は学校に行き、勉強もしないといけません。そのため監督・コーチ・教員が現地に来て、性格、人間性なども判断して決めるかたちが増えています。それにランニングフォームも重要なポイントで、監督さんの好みのタイプがけっこうあるんです。速くても勉強嫌いだとパフォーマンスに影響しますし、日本に来て初めて雪を見る選手もいます。日本の高校・大学で成功するにはメンタルが強く、真面目な性格かどうかが重要になるんです」

「狩猟民族のカレンジン族より農耕民族のキクユ族が日本に向いている」

なお柳田さんがキャンプを構えているのが、リフトバレー州にあるニャフルルという都市だ。標高は約2400m。都市部の人口は3万人ほどしかいないが、北京五輪の男子マラソンで金メダルを獲得したサムエル・ワンジルをはじめ、世界的にも著名なランナーを多く輩出している。そして現在、日本に来ているケニア人留学生の大半がニャフルル出身なのだ。

ケニアには42の民族が存在していると言われているが、世界の長距離界を席巻しているのがカレンジン族とキクユ族になる。男子マラソンの世界記録保持者であるエリウド・キプチョゲはカレンジン族で、柳田さんが最初に訪れた都市イテンにはカレンジン族が多い。

一方、ニャフルルにはキクユ族が住んでいる。個人差はあるが、「農耕民族であったキクユ族は狩猟民族であったカレンジン族よりも忍耐強いため、日本の学校生活にも適応しやすい」という。