「若手がやる気をなくす」は言い訳だった

前述した会社でその後行ったヒアリング調査によると、「営業目標の絶対達成というスローガン」に対しての印象は、次のような結果となった。

部課長をはじめとしたベテラン社員(入社10年以上):「私は問題ないが、若手のモチベーションが下がるのではないかと心配だ」

若手社員(入社10年未満):「目標を絶対達成すべきならキチンと言ってほしい。社長が絶対達成しろと言っているのに、自分の上司が本気で取り組んでいないのなら、やる気をなくす」

まるで若手の代弁者であるかのように振る舞っていた営業部長や総務部長はトーンダウンした。社長の方針に口出しすることはなくなった。若手がモチベーションを下げる原因は、社長の方針に自分の直属の上司である中間管理職たちが同調していないことだったのだ。

これは多くの企業で見られる傾向だ。

先述した通り、自分のペースで仕事をしているベテラン社員ほど「現状維持バイアス」がかかっており、変化に対して強い抵抗を示すのだ。その際、自分が変化できないことを言い訳にできないので、「部下のモチベーションが下がる」「若手がやる気をなくす」と主張するのだ。

これはつまり「モチベーション」という言葉を本来の意味で使わなかった営業部長や総務部長によって、モチベーションという言葉が悪いほうに利用された例である。そしてこのようなことが会社の生産性低下につながるのだ。

疲れ果てたビジネスマン
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上司や社長の立場から「あるべき姿」を自問自答する

毎日の生活や仕事の中で「あたりまえ」だと認識していること、「習慣化されていること」はモチベーションに左右されない。

ということは、何が「あたりまえ」なのかを自分で意識してみることで、自分がとる行動がモチベーションを必要とするものなのか、否かがわかるはずだ。

さて、自分にとって何が「あたりまえ」なのか。営業部長として何をすることが「あたりまえ」なのか。ひとりの営業パーソンとして何が「あたりまえ」なのか。正しい自己分析が必要である。要するに、「あたりまえ」のことを日々キチンとできているかということを自己分析するのだ。

もし自分にとって、何が「あたりまえ」なのかを、今いち理解できないという人は、「今の自分は、いったいどうあるべきなのか?」――そう問いかけてみよう。そうすればわかるはずだ。

ビジネスにおいてであれば、自分の上司になってみるのだ。社長の立場から考えてもいい。お客様の立場からでもいいだろう。自分という人間は、どうあるべきなのか。その「あるべき姿」を繰り返し自問自答してみる。客観的に見つめ続ける。そうすれば、必ず見えてくるはずだ。

会社が設定した目標、上司から依頼された作業、期首に自分自身でコミットした行動目標――。これらは現在の自分にとって、それをやることが「あたりまえ」のことなのか。

そしてここまで自己分析できたら、次のステップとして、それらの作業や目標は、「あたりまえ」のことや「あるべき姿」にすべきなのかどうか? といったことを考えてみるべきである。