1カ月前、スポーツ推薦を断っていた
顧問Aは講道館杯全日本柔道体重別選手権大会で優勝した経験のある柔道家でした。その激しい暴力には、伏線がありました。
事件があった1カ月前、3つの高校からスポーツ推薦をもらった息子は「柔道で高校に行きたくない。自分が行きたい高校を受験したい」と言って、推薦入学を断りました。わが家は「自分が決めて進む。自分がしたいことをやる」という方針だったので、息子の意思を尊重しました。
息子は何か感じていたのでしょう。練習に出ずに逃げ回っていたようでしたが、顧問Aは下校時に校門で待ち伏せしていました。そして、練習と見せかけて息子に激しい暴力を振るったのです。
「死線を彷徨うような重傷を生徒に負わせたのだから、学校はきちんと調べてくれる」
そう私たちは信じていました。ところが、学校は私たち被害者家族に何も知らせないまま、1月4日に横浜市教育委員会に「事故報告書」を提出していました。報告書には「当該生徒の生命に別条はない」とありました。息子はまだ生死の境にあって、実際翌日5日に2回めとなる脳の大手術をしているのに。しかも、学校はこのような重大な学校事故は地元警察に通報する義務があるにもかかわらず、それさえもしていませんでした。
「救急車が来たことを話すな」副校長のかん口令
私は、8人ほどの柔道部員の自宅を訪ねて回りました。部員の女子生徒にも尋ねました。顧問Aの暴行現場に居合わせたことを確認していたからです。
「何でもいいから、見たことを教えてちょうだい」
私が必死で頭を下げると、彼女はこう答えました。
「私は何も聞いていないから、わからない」
私は「見たことを教えて」とお願いしたのに、なぜ「聞いていない」と答えたのか。それは息子のうめき声や、けいれんしている時の叫び声を聞いたことを否定しているのではないか……。
そう感じました。あとで、副校長が「救急車が来たことを話すな」と子どもたちに話していたことがわかりました。強いかん口令が敷かれていたのです。