【ガーズマ】すばらしいことですね。私たちのデータ(※)では、会社とブランドに求めるものとして「親切と共感」に対する期待が2005年から2009年の間に391%上昇しました。これは私たちがこのデータをとりはじめた1993年以降に見られた最大の変化です。こうしたなかで、人々に寄り添うようなサービスに特化したスタートアップが増えてきました。ボストンのリサイクルバンクという会社は、リサイクルボックスにチップを埋め込み、人々がゴミの削減やリサイクルに協力しない家庭に罰則を設けるという発想をやめて、協力することで収入を得られる仕組みをつくりました。ロブ・ケイリンという若者がつくったエッツィーという手工芸品をネットで販売する会社は、それまで自分のつくったものを売る機会のなかった人に場を提供しました。実際にエッツィーを使った人のうち20%が、オンライン以外の場所で継続的に自分のつくったものを買ってくれる業者を見つけています。リサイクルバンクもエッツィーも、人々の自立を助ける仕組みなのです。

(※Brand Asset Valuator(BAV)。ヤング&ルビカム社が1993年以降日本を含む51カ国で行っている世界最大級のブランド調査)

【イケダハヤト】日本でも行政に頼らず、自分たちの力で目の前の問題を解決しようというスタートアップがいくつも出てきています。たとえばルームドナーというサービスは、被災して家をなくした方に家を貸しますというというマッチングのサイトです。これを通じて84家庭、240人に家がみつかりました。20歳の若者が4日でつくったサービスです。また、セキュリテという会社は、被災したカキの養殖会社に投資を募り、リターンとして牡蠣を届けるという仕組みをつくりました。もう5000万円以上の投資が集まっています。

【ガーズマ】それこそがソーシャルメディアの力ですね。若くて経験のない人でも非常に短期間に人をあつめて問題解決の手段を提供できるわけですから。 

【イケダハヤト】しかも行政に頼らず、コミュニティのなかで問題を解決し、税金コストも抑え、雇用を生むという循環をつくることも可能です。シュアールという遠隔手話通訳の会社があるのですが、聴覚障害者が地方にいったときに行政サービスが受けられないという問題を解決するサービスを提供しています。代表の大木洵人さんは87年の24歳。聴覚障害者の方の生活が改善して日本がもっと住みやすい国になるだけでなく、行政が税金をつかってやっている手話通訳者の育成や派遣を民間の会社が代替して税金的コストを下げています。さらに、手話通訳で食べていけるひとたちを育てて雇用を生んでいるというのもすごいと思います。

※すべて雑誌掲載当時

【今回登場した企業のURL一覧】

・リサイクルバンク http://www.recyclebank.com/
・エッツィー http://www.etsy.com/
・ルームドナー http://roomdonor.jp/
・セキュリテ http://www.securite.jp/what/
・シュアール http://www.shur.jp/

ジョン・ガーズマ
世界的に活躍する消費者行動の研究家。ヤング&ルビカムの元チーフ・インサイト・オフィサー、ブランド・アセット・コンサルティング社長。消費者の価値観やニーズの変化をデータで分析し、企業の適応を支援している。主な著書に、『スペンド・シフト』(共著、プレジデント社)、Brand Bubble (未訳)がある。毎年各分野の第一人者が集まるTEDカンファレンスの講演者としても人気が高い。現在執筆中の次の著作は『It's a Woman's World』(仮題)。政治やビジネスのあらゆる局面で「女性的なものの見方やアプローチ」こそソリューションへの鍵であることを実例をまじえて紹介する予定。 
http://johngerzema.com/http://twitter.com/#!/johngerzema

イケダハヤト

ブロガー。2009年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、大手半導体メーカー、ベンチャー企業にてソーシャルメディアに関するマーケティング業務に従事した後、独立。ソーシャルメディアと社会変革、若者のライフスタイル、キャリアの変化に関する情報を発信している。著書に「フェイスブック私たちの生き方とビジネスはこう変わる(講談社)」などがある。講談社現代ビジネスにて「ソーシャライズ!」を連載中。 
http://ikedahayato.comhttp://twitter.com/ihayato
(澁谷高晴=撮影)