「おぼろげながら浮かんできた」空虚な日本の削減目標

日本が2030年までの削減目標とする46%の根拠は曖昧である。今年(2021年)4月23日、小泉大臣はTBSの『NEWS23』に出演し、小川彩佳アナウンサーに根拠について聞かれ、両手で“浮かび上がる”輪郭を描きながら次のように説明した。

小泉大臣 くっきりとした姿が見えている訳ではないけれど、おぼろげながら浮かんできたんです。46という数字が。
小川 浮かんできた?
小泉大臣 シルエットが浮かんできたんです〉

天のお告げでもあったかのような不思議な受け答えは批判を浴びたが、積み上げた数字ではないので根拠を答えられるはずがない。

東大大学院特任教授で以前は経済産業省で気候変動交渉に携わった有馬純氏は、「26%の数字だって、全部原発再稼働を前提にしたギリギリの数字だよ。これに20ポイント以上も上乗せするなんてどう考えてもできない」と語る。

現在日本には36基の原発があるが、再稼働しているのはたった10基である。2017年に経済産業省がまとめた「長期地球温暖化対策プラットフォーム報告書 我が国の地球温暖化対策の進むべき方向」には、2050年までに温室効果ガスを80%削減すれば、「国内には農林水産業と2~3の産業しか残らない」という見解が示されている。菅首相が排出実質ゼロを宣言した今となっては、国内で農業ですら産業活動を維持できるのか不安である。

過度な数値目標は産業経済を破壊する

もとより、パリ協定に強制力はない。各国の二酸化炭素削減目標は現実の技術の到達とは関係なく、目標は掛け声として加速する傾向で、未達でも何らペナルティや拘束力はなく、各国政府の任意に任されている。したがってどの国も目標を必達ゴールとは考えておらず、日本も同様にできもしない目標に真面目に取り組むべきではない。

加藤康子ほか『SDGsの不都合な真実』(宝島社)
加藤康子ほか『SDGsの不都合な真実』(宝島社)

ただ、担当官庁の役人が指導者の発した言葉に縛られ、その数値を実行しようとして、組織に人を貼りつけ、生真面目に政策や予算に計画を落とすなら、国家にとってこの数字は大きなリスクとなる。

政府がどう対応すべきかは前出『NEWS23』出演時の小泉大臣の小川アナウンサーへの答えがヒントとなっている。

〈意欲的な目標を設定したことを評価せず、一方で現実的なものを出すと「何かそれって低いね」って。だけどオリンピック目指すときに「金メダル目指します」と言って、その結果銅メダルだったときに非難しますかね〉

すなわち、この数値は「オリンピックで金メダルをとるなどといった努力目標にすぎない」と受け取れる。だが政府の方針に目標年限が記載され予算がつくと、日本は国をあげて否が応でも目標に向け前進していく。

脱炭素をイノベーションのチャンスと見るのか、危機と見るのか業種によって受け止め方に差はあろう。だが産業史を見ても、政治が現実からかけ離れた実現不可能な目標を約束し、目標達成のために制度設計を誤り、規制や負荷をかけすぎると、産業経済を破壊する。

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