「感情ヒューリスティック」の2つの危うい例

1.路上飲みや公園飲み

2020年4月の緊急事態宣言以降、旅行が激減した代わりにキャンプ場や河原などで飲食する人が大幅に増えた。バーベキューや芋煮会などで食べるものがおいしく感じるのは、先の球場でのビールの例と同様に、屋外の環境で大勢の人たちとワイワイ言いながら食べる楽しさが「おいしさ」として評価されるためだ。

この「おいしさ」を経験的に知っている人たちは、コロナ禍で行動制限されると、むしろ家の中より屋外で飲食したくなる。緊急事態宣言により路上飲みや公園飲みが増えるのも、単に飲食店で酒の提供が禁止される理由だけでなく、上述の「おいしさ」「楽しさ」「心地よさ」を求めたくなるからだ。

一方、路上飲みや公園飲みをする人たちは「屋外だから換気は十分なので安心だ」と思いがちだ。ところが、その安心感がゆえにマスクを外して相手と至近距離で話しがちになる。さらに酒が入ると大声で話す傾向が強まり、ウイルスが飛散しやすくなることも感染リスクを高めている。

2.ビールのテレビCM

一方、消費者側のこうした傾向に呼応してか、商品提供側も感情的な動画や音で、おいしさ、楽しさ、心地よさを訴求する傾向が強まっている。

テレビを眺めているとコロナ禍で飲食店での売り上げが激減したビール会社による「家飲み促進CM」がやたら目立つ。

レトロ古いオレンジ色のテレビ受信機
写真=iStock.com/BrAt_PiKaChU
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実はテレビCMは感情ヒューリスティックを利用して購買欲求を促す典型例だ。CMの時間は15秒から30秒しかない。このため視聴者にじっくりと考えさせず、雰囲気やイメージ、印象に残る映像や音などを使って、論理よりも感情的に「ほしい」と思わせる訴求をしている。

あるCMでは樽から注ぐ生ビールのうまさを雰囲気たっぷりに映し出し、「家でもこのうまさを体験できる」ことを訴求して、家庭に配達する小型生ビール樽の定期購入を促す。

ビアガーデンなどで味わう樽生ビールのうまさを体験的に知っている消費者は、緊急事態宣言で外飲みができない事情もあり、つい購入手続きをしてしまう。

購入した人はせっかく買ったのでと、外飲みしていた時よりも多めに飲みがちだ。ところが、コロナ禍でテレワークが続き、家での滞在時間が長く、運動不足気味だ。大量のビール摂取によるカロリー過多でコロナ太りになったり、糖尿病が悪化したりするリスクが考えられる例が少なくない。