タクシー運転手が泥酔した客を起こすときに使う方法がある。15年にわたってタクシー運転手として働いた内田正治さんは「ほぼ100%の乗客が起きるのは、携帯電話の着信音を耳元で鳴らすこと。タクシー運転手は乗客に触ってはいけないので、この方法を使えば乗客に触れることなく確実に起こすことができる」という――。(第1回)

※本稿は、内田正治『タクシードライバーぐるぐる日記』(三五館シンシャ)の一部を再編集したものです。

夜、東京のタクシー
※写真はイメージです。(写真=iStock.com/mbbirdy)

詭弁で4000円を踏み倒す客

タクシードライバーは、基本的にどこの誰かもわからない人物を乗せる。私が乗せた中でもっとも嫌なお客と、もっともアヤシイお客の話である。

酔っぱらいやその筋の人はタクシードライバーなら誰もが関わりたくない。しかし、見た目では判断できないことも多い。流しで秋葉原から乗った男性客だった。30代のこざっぱりしたジャケット姿で身なりもふつうである。「松戸まで3000円で行ってください」と言う。

秋葉原から松戸となると、とてもその料金では行けない。エントツ(メーターを正しく操作せずに、料金をドライバーが着服する不正行為)はできないシステムになっているし、やるつもりもなかったので、「メーター料金どおりになります」と答えた。

無言でなんの返答もない。そのまま目的地に向かう。1時間ほどで到着。メーターは7000円を超えている。するとお客は「3000円の約束だったよね」と言って、それだけ置いて降りようとする。

「その料金を承知したことはありません」
「でもそのまま走り出したよね。私が料金を伝えて、あなたが走り出したということは了解したということだよね」
「メーターどおりとお伝えしました」
「私はその話を承諾していない。私が提示した料金を理解して走り出したのだと思っていたんだけど」

完全に詭弁きべんではあるが、ああいえばこういうで、らちが明かない。そのうちに「それでは裁判になってもいいので白黒つけよう」などと言い出す。ドライバーは反論できないと思って強引に自分の主張を押し付けてくる。

この調子で10分以上口論しているうちに、もう面倒になってきた。「裁判で白黒つけてやろう」と迎え撃つだけの覚悟もなかった。悔しさをこらえて、そのお客を降ろした。