現場を離れた大企業出身者の残念な特徴

私の人材紹介会社には、今はメールでアクセスする人が増えたが、かつて電話で依頼が入ることが多かった。そこにかけてくる電話で、「ああ、これは大企業のそれなりの役職がある人だな」とピンとくることが多々あった。

かかってきた電話にこちらが出ると、「もしもし。○○をしていただきたいのだが」「○○さんいますか?」と話しはじめる。自分が何者かを名乗らないのである。

電話をかける男性
写真=iStock.com/PeopleImages
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明らかに長い間自分で電話をかけたことがなかったのだろうとわかる。電話は秘書や部下が取り次ぐか、相手からかかってくるものだったに違いない。

そのマナーが問題なのではなく、そのようなビジネスの最前線から離れた場所でしか仕事をしてこなかった事実こそが問題だ。もう戦力から離れた人なのだなと感じさせてしまう。

ボーイング747のようなジャンボジェット機は、すばらしいテクノロジーが集結した飛行機だ。数百名を遠く地球の反対側まで輸送するという大きなミッションを果たすことができるが、ほとんど自動運転で操縦できる。

一方で、大きな飛行機を運転できるからといって、小さなヘリの運転が楽勝なわけではない。大きなミッションをこなせるからといって高い技術を持っているとは限らないのと同じように、大きな会社をまわしてきた人間が、小さな会社を簡単に回せるはずなどないのだ。

大企業時代の“実績”は誰のものなのか

守秘義務があるため、いくつかの加工を加えてエピソードで伝えよう。

Aさんはある大手企業の経営企画を手掛けてきた人だった。50代も後半になり、役職だけが剥奪されて給料の安い平社員として働く「役職定年」になったこともあり、私のもとに相談に訪れた。

長年、事業のM&Aを指揮してきた。AさんのM&A戦略によって、その会社は市場の変化に柔軟に対応して事業を伸ばし、生き残ってこれた。自他ともに認めるAさんのすばらしい功績だ。

「自分の腕を買ってくれる、M&Aを手掛ける企業に転職したい」

Aさんは年齢を感じさせぬ輝くような瞳でそう訴えた。しかし1年後、同じ瞳を見ることはなかった。スカウトメールはほとんどなく、うまく求人までこぎつけても先へ進めなかった。

実績は確かにある。ノウハウも積んでいたようだ。ただし、それらはすべて「優秀な部下がいてこそ輝いたノウハウであり実績」だったからだ。今1人で、ゼロからM&Aを企画して、そのプロジェクトを仕切れるのか。膨大で複雑なデータを集めて、自分の手で解析してM&Aの判断ができるのか。答えは明らかにノーだった。

大企業で出世の階段を上り詰めた人こそ自覚したほうがいい。時代は今この瞬間も刻一刻と変わり続けている。過去の栄光は、その当時を切り取った栄光でしかない。時代は変わるのだ。