トランプ政権の影響で連邦最高裁が右傾化

ひるがえって権利擁護団体が同法に対して行った差し止め請求をめぐり、連邦最高裁が9月1日に下した判決は「ノー」だった。合憲性に関する判断は避けつつ、9人の最高裁判事のうち5人が施行にゴーサインを出した。

実はこの9人のうち、トランプ政権下で任命された判事は3人おり、いずれも保守派だ。その結果、現在の最高裁は、判事9人のうちリベラル派がわずか3人という、右傾化が際立つ状況になっている。今回の判断にトランプ前大統領の影響が色濃く反映されているのは言うまでもない。

ワシントンDCにある米国最高裁判所
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トランプの影響で共和党が中絶を政治問題化

トランプ前大統領が中絶問題に及ぼした影響は、最高裁の右傾化にとどまらない。共和党が同氏の戦略を踏襲し、政治的アプローチ法を変えたことも、その一つだ。

以前の共和党は平均的な有権者に配慮していたが、トランプ氏が自らの岩盤支持層にターゲットを絞り、熱狂的な人気を博したことで、戦略を変えた。大半の有権者にアピールするような政策に訴えるのではなく、中絶問題に最大の重点を置き一票を投じる有権者の心をつかむことで、さらなる支持を集めようというわけだ。2016年の大統領選でトランプ氏を熱烈に支持したキリスト教福音派は、中絶問題を最重要視するといわれている。

実際に複数の世論調査を見てみると、中絶をめぐる共和党当局者の動きとは裏腹に、米国人の大半が中絶合法化を支持しているのがわかる。6月7日に発表された、米公共ラジオ局のNPRとPBSニュースアワー、マリスト大学による共同世論調査では、最高裁による「ロー対ウェイド判決」の無効化に反対する米国人は77%に上る。無効化を望む人は13%だ。NBCニュースによる直近の世論調査(9月1日発表)でも、「中絶はあらゆる場合、または大半の場合において合法であるべきだ」と、米国人の54%が答えている。

米モンマス大学の前出世論調査でも、テキサス州法の施行を容認した最高裁の判断に反対する人は54%、賛成は39%と、反対派が過半数を占める。

中絶禁止に動こうとしている州知事の大半は、次期大統領選共和党指名候補争いへの出馬を考えているともいわれる。自らを「本物の中絶反対派」だとアピールすることで、早くもライバル候補者らに抜きん出ようとしているのかもしれない。

トランプ前大統領のおひざ元、南部フロリダ州のロン・デサンティス知事(共和党)も次期大統領選への出馬が取りざたされているが、テキサス州法からは距離を置きつつ、「中絶反対」を標榜している。南部のサウスカロライナやアーカンソーなども含め、共和党当局者がテキサスのような法制化を考えている州は7州以上に上る。

ワシントン・ポスト紙(9月3日付)は、中西部のケンタッキーやオハイオ、南部のルイジアナやオクラホマなども後に続きそうだと報じている。同紙によると、2021年に全米で制定された中絶への制限・規制は推定97に上る。今年は、「ロー対ウェイド判決」以来、最多の制限・規制が行われた年だという。こうした傾向がさらに強まれば、中絶賛成派の怒りを買い、他の問題をめぐる有権者の政治的二極化や分断にも拍車がかかる。

トランプ大統領が誕生していなかったら、状況は変わっていたか。ジーグラー教授は「わからない」と明言を避けつつ、「最高裁によってロー対ウェイド判決が覆される可能性がここまで高まることはなかっただろう」と分析する。「連邦最高裁は数年以内に同判決の無効化に動く。来年、そうなったとしても驚かない」(同教授)。もはや時間の問題というわけだ。