教育は「趣味のいいサークル」ではいけない

——「ほぼ日の學校」をメインの事業に育てて、将来は1000万人の会員獲得を目指すと公言されています。

【糸井】1000万人と言い出したのは最近です。初めの頃の学校は100人くらいの規模で始めました。ライブの演奏を聞きに行くのと同じように、物事を誰かから聞いたり教わったりするというのはみんな大好きですからね。でも、それはよすぎるんです。

つまり趣味がよくて、センスがよくて、知的で、いい人が集まると、100人で自足しちゃう。僕のやることはいつもそうなりがちですが、教育ってそんな趣味のいいサークルみたいなものじゃない。誰も彼も巻き込んでいくようなものじゃないと本当の力にはならないんじゃないかなと。

ほぼ日社長の糸井重里さん
撮影=西田香織

僕は20代のときに矢沢永吉の『成りあがり』という本の制作を頼まれました。編集者の島本脩二さんは、親父さんが中小企業の経営者で、本棚に2冊しか本がなかった。島本さんはそれを見て、「本に無縁そうな親父も、その2冊は読んだんだな。自分も出版社に勤めているなら、親父みたいな人に読まれる本を作らなきゃダメだ」と考えた。その第1号が『成りあがり』でした。

『MOTHERシリーズ』も100万本は売れてない

僕はそのときの気持ちをすごく大切にしていて、ちょっとインテリな友達同士が「あれっていいよね」と言い合うようなことは、もういいかな、と。いい年ですから、ニッチですてきなことをやるのに骨を折るくらいなら、本当はジャズ喫茶でもやったほうが楽なんです。でも、やるなら局地的な盛り上がりじゃなくて、日本全国が「わ、大変だ」と思うようなものにしたいし、そのために自分の発想も変えていかなきゃいけない。

そういう意味で、いま一番変わっているのは僕自身ですね。放っておくと100人ですぐ満足しちゃうから、意識して1000万人をイメージして、いままでそっちへ行かないようにしていたこととか、そこまで考えてたら無理だよということの枠を取っ払おうとしている。いままさに振り回されているところで、それがつらいし、面白いです。

——糸井さんは、「コピーライター」という職業を認知させ、『MOTHERシリーズ』というゲームを作り、「ほぼ日」という会社を上場させています。何度も大きなブームを起こしてきたと思うのですが。

【糸井】MOTHERシリーズ』も100万本は売れてないんですよ。広告でやったことで100万人を動かしたようなものはあるかもしれません。でも、自分で「これは面白いんだ」と言ってやったことで、そういうサイズになったものはないんです。

「ほぼ日」もそうです。投資家から見たら、ほぼ日って期待のできない会社なんですよ。知ってる人は知っていて来てくれるけど、道を歩いている誰かさんをつかまえたことはない。だから今回の学校が、初めてのイノベーションじゃないかと思います。