街のあちこちで起こった「異変」

しかし、その頃すでに街のあちこちで京都をむしばむ異変が起きていた。

中心市街地のワンルームマンションのオーナーは住人に立ち退きを迫り、簡易宿所へ用途変更した。また、東山の八坂神社そばの30坪の京町屋は3000万円で売却されたあと、転売を繰り返し、最終的に1億2000万円で売却された。住居に比べてはるかに高利回りな宿泊施設経営に莫大な「投機マネー」が流れ込んでいったのである。

一方で、街中の住宅供給は極端に低下した。2017年マンション供給は前年の3分の1に落ち込み、中京区では例年300~600戸で推移していた供給量は41戸にまで落ち込んだ。需給バランスの歪みにより、供給される希少なマンションは一般人が買える値段ではなくなっていった。

一方、「お宿バブル」で増加したホテルの稼働率は2015年の89%をピークに下がり続けていた。コロナ禍に見舞われた2020年4月は5%、2021年4月は20%だ。

30代の流出が都市を弱体化させていく

その頃から京都市の人口動態にも異変が生じてきた。京都府下との転入転出の数値が、2016年を境に転入超過から転出超過に転じたのである。当時市議だった私は“異常な事態”を前に、「これはベネチアやバルセロナで起きている観光公害と酷似している」と危機感を覚えた。

京都駅の構内
写真=iStock.com/Pavliha
若者から京都を去っていく……(*写真はイメージです)

そこで2017年、まだ客室数4万室の目標を達成していない時期ではあったが、議会で市長に「ホテル充足宣言」をするよう迫った。しかし市長の答えは、「まだホテルは足りない」というもので、2019年5月に「ホテル充足宣言」が発せられるまで事態は悪化の一途をたどった。

ホテルが住民を駆逐するという観光公害の代表的事象が、この京都でも進んだ。

京都市の人口動態には特徴がある。20代と30代という若者の転出超過が止まらないのだ。20代は大学を卒業して就職で東京、大阪へ流出する。30代は住宅価格が高いため、周辺都市へ流出する。

20代の流出については、人口の1割を大学生が占める京都独特の特徴であるため、一定数はやむを得ない面もある。しかし、30代の流出は、少子化をさらに進行させ、納税義務者を失うことで税収にも悪影響は必至。さらに、街そのものが活力を失うという「三重苦」に見舞われる。

この30代の流出問題は、人口減少の中で最も深刻な課題のひとつとされている。そこで、各自治体は積極的な誘致に動いている。ところが京都市では、「流動人口8人で定住人口1人分の消費に匹敵する」と豪語し、観光優先の政策を改めようとしなかった。

その結果、周辺の長岡京市、向日市は全国屈指の人口増加を達成する一方で、京都市は2020年に人口減少数で日本一という自治体に成り下がってしまったのだ。