Jリーグ、陸上…クラファンの成功事例を学べ
近年はスポーツ界でもクラウドファンディングによる資金集めがスタンダードになっている。2020年正月、筑波大が26年ぶりに箱根駅伝に出場したときには、目標金額(200万円)を大きく上回る1531万円もの寄付総額が集まった。
Jリーグは多くのチームがクラウドファンディングに参加している。昨夏は鹿島アントラーズや浦和レッズが目標金額1億円を上回る資金を調達した。現在進行形のプロジェクトでは、「磐田市×ジュビロ磐田プロジェクト〜心ひとつにジュビロと共に〜」に6575万1000円(8月26日時点)が集まっている。リターンは選手直筆サイン入りユニフォーム、チームのエンブレム・ロゴ入りの個人名刺など(金額によって異なる)。
また「ジェフユナイテッド市原・千葉 30周年記念誌制作プロジェクト」は目標金額(500万円)の2倍となる1000万円以上が集まっている。リターンは30周年記念誌+ポストカード、選手からのお祝いメッセージ動画、クラブの歴代ピンバッジセット、レプリカユニフォームなどだ(同上)。
野球関連でいうと、ある少年野球チームが目標金額(150万円)を超える支援総額を集めたという事例もある。それと比較して国内屈指のスポーツイベントである「夏の甲子園」が約1200万円しか集まっていないのは、やはりクラウドファンディングとしての“魅力”が乏しいからと見ざるをえない。
なぜ、福井の陸上大会に目標額以上の支援が集まったのか
陸上界でいうと「Athlete Night Games in FUKUI」の“成功例”が大きい。一昨年に第1回大会を行ったが、どうしたら世間が注目する大会になるのか。主催する福井陸上競技協会は知恵を絞った。
最初に「音楽を流して、フェス感覚のような大会をやりたい」という選手の声を採用した。通常は企業に協賛してもらうことで大会を運営するが、それでは長続きしないと判断。「ファンの皆様と一緒に大会を作っていこう」と考え、当時・国内の陸上大会ではほとんど例のなかったクラウドファンディングで資金を募ることにした。
第1回大会はクラウドファンディングで第1目標の150万円を悠々とクリア。最終的には第3目標の600万円を超える785万円が集まった。その資金は選手のために最大限つぎ込んだ。招待選手の旅費交通費を負担して、一部のプロ選手には出場料も支払った。さらに招待レースには、1位30万円、2位20万円、3位10万円の活動支援金を設定。日本記録には200万円を用意した。
特筆すべきは、その大会が大いに盛り上がり“福井の伝説”になったことだ。なんと一夜にして日本新が3つも誕生した。
まず、男子走り幅跳びで橋岡優輝が1回目に8m32を跳び、日本記録を27年ぶりに更新。その約30分後、城山正太郎が自己ベストを一気に39cmも塗り替える8m40の大ジャンプを披露した。ふたりのバトルを速報で報じたスポーツ紙の記事はヤフーニュースのトップを飾った。さらに男子110mハードルでも高山峻野が13秒25の日本記録を樹立した。
開催場所の福井県営陸上競技(愛称「夏夜の9.98スタジアム」)はホームストレートに絶好の追い風が吹く瞬間が多い。その特性を生かせる種目に絞り、クラウドファンディング支援者には特別に、日本の競技会ではタブーとされているフィールド内にも観戦エリアを設けた。陸上界の“砂かぶり席”の誕生だった。
通常の大会はトラックとフィールドが同時進行されるが、1種目ずつ行うことで、会場は一体感に包まれた。好記録連発は偶然ではなく、その空気感をつくった結果と言えるだろう。大会終了後は選手とファンが記念撮影など交流して、約5000人の観客が陸上競技の新たな大会を楽しんだ。
第2回大会となった昨年はコロナ禍のため客席数を減らしたが、約640万円が集まった。今年(8月28日開催)もクラウドファンディングで500万円以上を集めている。福井は地方都市でもやり方次第では全国から注目を浴びるような大会が開催できることを証明した。