デロイトUS シニアパートナー ジェームス・クィグリー

デロイトUSのCEOを経て、デロイト トウシュ トーマツ リミテッドの前CEO。デロイトにおける36年のキャリアの中で、数多くの多国籍企業へ助言を行う。社外においても多くの公共団体等の役員・委員を務め、ダボスの世界経済フォーラムにも定期的に招待され、グローバルビジネスの動向について講演を行う。
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――それでは、どう組織を変革したらよいのでしょうか?

前回お話したように、As Oneは組織の診断ツールです。「Who(帰属意識)」「What(目標認識)」を使って組織の中で特にAs Oneが求められるテーマを明確にし、「How」で組織の標準アーキタイプを判定します。そして、判定結果の標準アーキタイプが、As Oneテーマに適合しているかどうかを評価する。評価の結果は「適合している」「適合していない」「ミスマッチ」の3つのどれかになります。

「適合している」場合は、問題ありません。標準アーキタイプを強化し定着させます。問題なのは「適合していない」と「ミスマッチ」の場合です。その場合、標準アーキタイプを他のアーキタイプで補完する必要あります。

また、組織によってはいくつものアーキタイプが横並びになってしまい、標準アーキタイプが明確にならないこともあります。その場合には、その組織に最もふさわしいと思われるアーキタイプを定め、それを定着させることになります。

実際のクライアントの事例でお話しすると、ヨーロッパのある金融機関は、過去3回のM&Aによって、従業員のモチベーションが明らかに下がっていることが問題となっていました。そこで、As Oneの手法で診断したところ、「Who」はチームへの帰属意識が強いものの、会社に対しては低いことがわかりました。「What」については、会社からは「個人のスキル向上」や「人材の獲得・維持」といった目標が掲げられていましたが、達成への意欲が低い状態でした。しかし、「How」については、試行しながら活発に活動することを好む、「建築家と職人」や「プロデューサーとクリエイティブチーム」型アーキタイプが強く出ている組織であることがわかりました。これは明らかにアーキタイプが適合していないケースです。そこで、私たちは標準アーキタイプを定義し直し、自分たちはどこに向かっていくのか、そしてそのためには自分たちがどのように成長しないといけないのか、というロードマップを改めて策定し、施策として実行していくことを提言しました。

本書の最後、「As Oneの実践に向けて」という章で診断と施策、導入について、実際に導入した実例を使って解説しました。また、エピローグでは負け犬であったデロイト オーストラリアが、As Oneによって業界2番手の座に迫るほどの躍進ぶりも紹介しましたので、ぜひ参考にしてください。

企業文化も、組織も変えられます。もちろん、容易なことではありません。時間もお金もかかります。また、一度施策を打てば終わりというわけにもいきません。トップとミドルが、As Oneになれているかどうか、常に確認していく必要があります。でも、行動しなければ、何も変わりません。それではこの激動の時代を生き残ることは難しいでしょう。

――日本はもともと現場中心主義であり、すでにAs Oneの環境ができているように思えます。それでは、日本はこの本から何を学べばいいのでしょうか?

トヨタがそうですね。トヨタはすでにAs Oneが実現できている、1つのよいケースです。実際に本の中でもトヨタを「指揮者とオーケストラ」型アーキタイプの事例として取り上げています。現場における精度の追及とそれを可能にするための個人の規律、さらにはそのような企業文化を継続的に再生産するための体系的な手法の重要さを示す良い事例です。

しかし注意してほしいのは、自分の組織にとってどのようなアーキタイプが適しているのか、組織の生い立ちや市場環境などを踏まえて、どのような一致団結の形がふさわしいのか真剣に考えなければいけないということです。たとえば先ほどの「指揮者とオーケストラ」型組織の発想からでは、タタの「ナノ」のようなイノベーションは生まれなかったでしょう。

――ありがとうございました。

※すべて雑誌掲載当時