デロイトUS シニアパートナー ジェームス・クィグリー
デロイトUSのCEOを経て、デロイト トウシュ トーマツ リミテッドの前CEO。デロイトにおける36年のキャリアの中で、数多くの多国籍企業へ助言を行う。社外においても多くの公共団体等の役員・委員を務め、ダボスの世界経済フォーラムにも定期的に招待され、グローバルビジネスの動向について講演を行う。
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前回は、As Oneが誕生するきっかけが、実はデロイトという組織を1つにするためのイノベーションであったというエピソードを聞かせていただいた。2回目は、As Oneとは何なのか、As Oneによって組織が本当に変わりえるのか、についてインタビューした。
――As Oneとはどのようなものなのでしょうか?
簡単に言えば、As Oneとはリーダーシップのあり方に対する新たな定義のことです。リーダーシップというと、従来はカリスマ的存在のリーダーがいてトップダウンで組織を引っ張るか、あるいはさまざまなステークホルダーの意見を合わせていく調整型リーダーシップという見方のどちらかでした。しかし、リーダーシップの分類がこの2つだけというのは、おかしな話です。
また、リーダーシップというのは必ずしも組織のトップに求められるとは限りません。5万人の大きな組織であっても、その中の5人だけの小さなグループであっても、リーダーは存在し、リーダーシップを発揮する必要があります。ただ、組織のメンバーの意識と行動がどのような状態であるかによって、とるべきリーダーシップが異なるというだけのことです。このような領域では、実務的な手法はまだ確立されていないのです。
私たちは、リーダーシップには「Who(人)」「What(目標)」「How(生産的な協働)」の3つの要素がとても大切であると捉えています。というのも、リーダーが組織の特徴を知らなければ、組織を一致団結させることができないからです。
ここで、Whoとはメンバーの組織への帰属意識、Whatは企業が求める目標を実現するためにどれだけ行動を起こせているかという目標認識、最後のHowが実際にどう行動するかという行動様式のことです。
As Oneは、この3つの要素を統合させたものです。つまり、「同じ仲間意識を持った人々が、生産性高く協力し合い、共通の目標を達成すること」です。そして、リーダーシップを「As Oneとなった状態を自らの組織で実現すること」と定義したうえで、自己組織化マップ(SOM)という分析手法を使って、グループ運営のスタイルを8つの行動様式に分類しました。
今回出版した本は、このうちの行動様式に焦点を当て、アーキタイプと呼ばれる8つの行動パターンを解説しています。行動様式を分類するうえでは、縦軸にトップダウンかボトムアップかいう目標設定のスタイルが、横軸にマイクロマネジメントかマクロマネジメントかという目標の実行スタイルを置いてモデル化しています。そして、このモデルの上に8つのアーキタイプを定義しています。
「オーナーとテナント」「コミュニティーリーダーとボランティア」「指揮者とオーケストラ」「プロデューサーとクリエイティブチーム」の4つがそれぞれの軸の先端にあたるアーキタイプ、そして、「建築家と職人」「議員と市民」「キャプテンとスポーツチーム」「司令官と部隊」が両軸の間に位置する混合型アーキタイプです。
――すべてのアーキタイプが、関連する単語の組み合わせになっていますね。これには、何か意味があるのでしょうか?
アーキタイプをイメージしやすいように、比喩的にリーダーとフォロワーを組み合わせました。そうすることで、よりどのようにその組織が運営されているのかが理解しやすくなりました。
たとえば、アップル社のApp Storeの場合、アップル社はApp Storeという仮想商店を強力なルールのもとで運営しています。でも、30万点以上ものアプリの開発者たちは、そのルールにしたがっています。この両者の関係は、まるでオーナーとそのテナントのようです。
一方、その対極にあるのがLinuxです。Linuxの生みの親であるリーナス・トーヴァルズは、アップル社のようなルールを設定しませんでした。むしろ投げ出したようなものです。しかし、Linuxというカーネル(OS)の可能性に惹かれた開発者たちが自然に集まり、自主的にコミュニティーを作り上げました。この関係は、コミュニティーリーダーとボランティアのようなものです。
同じように、薬局に画期的な形態を導入したメドコ・ヘルス・ソリューションズと薬剤師の関係は指揮者とオーケストラに、過去25年以上もサーカスを変革しつづけてきたシルク・ドゥ・ソレイユとそのパフォーマーの関係はプロデューサーとクリエイターチームにそっくりです。
これら4つは軸の頂点に位置するメインタイプですが、それぞれの中間に位置する混合タイプも、基本的には同じです。明確な昇進機会によってモチベーションを上げているマリオット社と従業員の関係は司令官と部隊、誰もが不可能と考えていた低価格車「ナノ」の開発に成功したタタ・グループのCEOラタン・タタと開発にかかわった関係者たちは建築家と職人、読み書きができないにもかかわらず1日20万個を超えるお弁当を毎日正確に配達するという見事なチームプレーを見せるムンバイのダバワラたちはキャプテンとスポーツチーム、職務分掌も組織図も肩書もほとんどないにもかかわらず画期的な製品を開発し続けているW.L.ゴア&アソシエイツ社とその社員は議員と市民に、それぞれ当てはまります。