歯科の矯正治療への健康保険の適用は認められていない。しかし、「顎変形症」と診断され、外科治療が必要な場合は保険適用となる。
その顎変形症とは、上顎の骨と下顎の骨、また両方の顎の大きさ、形、位置に異常を起こしており、そのために上下の顎の関係がずれているものをいう。当然、噛み合わせも異常を起こしており、機能と美的な点が不調和状態にあるものを総称して顎変形症と呼んでいる。
原因は遺伝といった先天的なもののほかに、外傷などによる後天的なものなど、さまざま。原因不明のケースもある。
この顎変形症を最も一般的な言葉で表現すると、「受け口」「出っ歯」「顔面非対称」「開咬」などといわれているものなど。ごく身近な疾患である。
治療は矯正歯科が単独で行えるものではなく、口腔外科もしくは形成外科とチームを組んで行う。これが頭にも影響を及ぼすケースでは脳神経外科も加わって、より広がりのあるチーム医療となる。
顎変形症のひとつ「受け口」は、下顎が上顎より前に出て、下の歯が上の歯を隠す形の噛み合わせになっている。患者は「ものがうまく噛めない」「顎が出ていることでコンプレックスがある」という人が多い。
治療を希望して矯正歯科を受診すると、十分な問診とともに「歯科矯正セファログラム」と「下顎運動検査・咀嚼(そしゃく)筋電図検査」が行われる。
歯科矯正セファログラムは頭部のエックス線規格写真のことで、診断・治療に最も重要な検査。下顎が出ているから受け口になっているのか、上顎が後退しているから受け口になっているのか、セファロを分析して判断するのである。下顎運動検査は、治療の前後に機器を使って下顎の動きを記録し、改善度をチェックする。
咀嚼筋電図検査は、咀嚼筋の活動状況を顎の皮膚に電極を貼って調べる。
あとは歯型から歯並びの模型を作り、顔と口の写真を撮る。検査資料をもとに診断・治療計画をたてて患者に説明する。
治療はすぐに手術ではなく、まずは手術前に術前矯正治療を行う。術後、上下の顎の位置関係が変わったときに、正常な噛み合わせになるように歯を並び替えるのである。
そして、下顎が大きく突出しているのであれば、下顎の骨を離断して後退させ、チタンのプレートやネジで留める。
逆に上顎が後退しているのであれば、上顎の骨を離断して前へ出し、やはりプレートとネジで留める。
ただし、短い側の骨を延ばす場合には、「骨延長術」が行われることもある。
延ばす側の顎骨を離断してチタン製のプレートとネジで骨を留め、歯肉を縫合して傷が治るのを待つ。約1週間後から外に出ているネジを回すと骨と骨が離れる。1日に0.5~1ミリずつ骨を離すと、空間を埋めるために骨が再生する。
骨延長術は顎の成長が止まった段階で、あまり骨が硬くない10代後半から20代で行うのが一般的ではあるが、もちろん、例外もある。
顎変形症に悩んでいて、治療を希望する人は、どこの矯正歯科でもOKというわけではない。矯正治療が保険でできる施設基準を満たした医療機関で、きちっと顎変形症に取り組んでいる矯正歯科医に相談するべきである。
【生活習慣のワンポイント】
大都市の人々は、何でも相談できる“かかりつけ医”を持っている人は少ない。が、“かかりつけ歯科医”を持っている人はかなり多い。顎変形症は遺伝の場合が多いので、子どものことは親がしっかりチェックして“かかりつけ歯科医”に相談。すでに大人になって気にしている人は、自分自身で“かかりつけ歯科医”に相談してみよう。新しい道が拓けるものである。