「“ブランディング”なんてわからんのじゃ!」

売り上げは芳しくなかったが、最初の年は設備投資と準備期間と位置付けていた田澤さんにとっては些細なことだった。

田澤恵津子さん(右)と炭焼きを担当する職人さん
田澤恵津子さん(右)と炭焼きを担当する職人さん(写真=本人提供)

それより、おじいちゃんたちとのコミュニケーションのほうが大変だった。バリバリのビジネス戦線を渡り歩いてきた田澤さんと、「インターネットは大嫌い」「コンピューターよりも俺の“勘ピューター”の方があてになる」「“ブランディング”なんて言われたってわからんのじゃ!」「“マーケティング”なんてわけのわからん言葉を使うな」というおじいちゃんたちとではまるで文化が違う。

「おじいちゃんたちには『事業』や『ビジネス』という感覚はないんですよね。最初の頃はもう、しょっちゅう言い合いですよ」

おじいちゃんたちには「会社の備品」という概念もあまりなく、断りなく持ち出して使うこともあったという。「ある時は、勝手にフォークリフトを持ち出そうとして、工場の壁を壊しちゃったことがありました。さすがにすごく怒ったら、以降はそういうこともなくなったんですけど」

最近は、ちょっとしたコツをつかんだ。「普段はなかなか言うことを聞いてくれないんですが、歴史的な背景や法律などを含めて丁寧に説明すると、納得してくれるようになりました」

コロナ禍までは、山口と東京を言ったり来たりする生活だったが、今は軸足を山口に置いている。「最初のうちは本当に大変で、いつもぐったりしていました。山口から東京に戻ると声が出なくなってるんです。『何とか自分の思いをおじいちゃんに伝えたい』と大きな声で一生懸命説明するので、毎回声が枯れていました」

ブランディングを重視、売り先を厳選

2016年にはエシカルバンブーを設立し、小さな製造工場を建設。約2年をかけて製造ラインを整備し、2018年からバンブークリアを本格的に製造・販売し始めた。この年の売り上げは、前年の1.7倍以上となる800万円になった。

宣伝広告費を一切かけず、徹底的に販路にこだわった。バンブークリアは、1リットル入りで1650円(税込み)と、一般的な合成洗剤に比べれば高く、ドラッグストアなどでの価格競争では勝負できない。しかし、希釈すれば掃除用洗剤や入浴剤としても使えるほか、少量で効果があるので洗濯1回あたりのコストは一般の洗剤の約半額で済む。そこで、ブランディングを重視し、売り先を厳選。産婦人科や助産院、美容院や薬局、皮膚科、国立公園の売店などに絞った。