この夏と冬には東電管内で「電力不足」が生じる恐れ

「梅雨明け以降、猛暑が来たらまたこの年末年始のようになるかもしれない」。電力業界から聞こえていたそうした不安は、この猛暑で現実になりつつある。

中国北部の河北省唐山市で建設が進む液化天然ガス(LNG)貯蔵タンク。2020年5月23日撮影。
写真=Avalon/時事通信フォト
中国北部の河北省唐山市で建設が進む液化天然ガス(LNG)貯蔵タンク。2020年5月23日撮影。

この冬の電力不足は予想外の寒波による電力需要の急増に加え、燃料である液化天然ガス(LNG)の輸送がパナマ運河のタンカーの停滞など特殊要因が重なり、電力燃料であるLNGの調達が困難になったことから引き起こされた。

大手電力は稼働を止めている石炭火力発電所を急遽、再稼働したり、ライバルのガス会社からLNGの「おすそ分け」を受けるなどして急場をしのいだ。

背に腹を変えられないとして、歴史的な高値を付けたスポット価格でLNGを購入したこともあり、大手電力の業績は軒並み落ち込んだ。

さらに追い打ちをかけるように、この状況下に菅義偉首相肝入りの「脱炭素」の政策が加わる。

経済産業省は5月、2021年7~8月と22年1~2月は電力需給が逼迫するとの見通しを明らかにした。夏はここ数年で最も厳しく、冬は東京電力管内で電力不足が生じる恐れがあるという。

脱炭素政策で石炭火力が相次ぎ撤廃、需給バランスに崩れ

電力の供給力の余裕度を示す「予備率」は北海道と沖縄を除き、7月に3.7%、8月に3.8%と見込まれている。一般的に予備率は3%が必要とされ、ここ数年では最も厳しい水準となりそうだ。さらに、22年1~2月は東電管内で予備率マイナスを予想している。

経産省が「電力不足」を警戒するのは、脱炭素政策で環境負荷の高い石炭火力発電所が相次いで撤廃に追い込まれ、需供バランスが一気に崩れているからだ。電力会社の火力発電所は縮小傾向で、電力の安定供給に支障が出やすい状況となっている。

経済活動の「血流」ともいえる電力が不足しかねないという一大事に、さらに新たな打撃が加わろうとしている。中国の「LNGの爆買い」だ。

新型コロナウイルス感染拡大から一足早く抜け出した中国は、経済活動の回復から電力需要が高まっている。

それに加えて、これまで沿岸部が中心だった経済活動の地域が内陸部まで浸透し始め、「国全体の電力需要がワンノッチあがっている」(大手商社幹部)という。