勤務医の年収は開業医の2分の1~3分の1だ。働く時間も長いブラック職場で人材をどう確保するのか。精神科医の和田秀樹さんは「大学医学部から医者を回してもらうしかありません。そのため、力関係で上に立つ教授の言いなり状態となることも少なくない」と、歪んだ医療現場の現状を指摘する――。

※本稿は、和田秀樹『コロナの副作用!』(ビジネス社)の一部を再編集したものです。

不織布マスクのうえにシールドを着用した医師
写真=iStock.com/kyonntra
※写真はイメージです

「ドクターズビル」という仕組み

日本医師会が一時に比べれば政治力が弱くなったとはいえ、それでも開業医の外来診療のほうが民間病院の病院診療よりも割が良い状況は守られています。こうした状況で現在何が起きているでしょうか。

医者の数がぎりぎりの民間病院では、週に1回、医者は必ず当直をしなければなりません。ひどいときには週2回当直しないといけなくなります。しかも、当直の翌日に外来勤務をやることもあります。俗に言う「ブラック職場」です。

それにもかかわらず、開業医よりも年収は低い、というのが民間病院の勤務医です(開業医の年収は勤務医の2~3倍)。

バブル経済崩壊後、土地や建物の買い手が、特に地方ではつかなくなりました。そこで不動産屋が考え出したのが、「ドクターズビル」です。内科や外科、小児科、耳鼻科、眼科などが1つのビルに入っているドクターズビルを見かけたことが誰にでもあるでしょう。

このドクターズビルが現在増えているのですが、どのようなビジネスの仕組みになっているかを考えたことがある人は、あまりいないかもしれません。

たとえば、5階建てのビルを建てたとしましょう。ワンフロアの広さにもよりますが、単純にワンフロアに1診療科とすると、2階から5階に4つの診療科を誘致します。そして、1階に入るのが、調剤薬局です。

2〜5階の診療科のほとんどの患者さんが、医者から発行された処方箋を持って1階の調剤薬局で薬を購入します。だから、当然、調剤薬局は儲かります。つまり、ドクターズビルのスポンサーは、医薬分業で生まれた院外調剤薬局なのです。

一番儲かるのは1階の調剤薬局なので、調剤薬局が土地を買ってビルを建て、内科、外科、小児科、耳鼻科、眼科などにビルに入ってもらい、それらの処方箋を持った患者が1階の調剤薬局に来て薬を購入するというシステムなのです。調剤薬局が開業資金を融通するという話も聞いたことがあります。

ドクターズビルは、1階の調剤薬局で儲けることができるため、2〜5階の診療科の開業医へのビルの賃貸料を安くすることができます。

これまで医者は自ら開業するためには、自分で土地を買い、建物を建てていたため、億単位の借金をする必要がありました。さらに、自宅と診療所が同じ建物にあるか隣接していたため、夜中に患者に来訪され、たたき起こされることも多くありました。

ところがドクターズビルに入るのであれば、敷金は無料で毎月の賃料だけを払えばよく、夜中にたたき起こされる心配もありません。それで勤務医時代の2〜3倍の年収になるなら、多くの勤務医が民間病院を辞めて、開業するのも当然です。

だから、ドクターズビルが増え、ドクターズビルに医者をとられた民間病院では、勤務医がさらに足らなくなるのです。