ジョー・バイデン大統領が、財務長官ジャネット・イエレンとともに21年4月に提唱した「法人税の国際最低税率」は、このような事態に歯止めをかけて財源を確保するためであり、G20を中心とする世界各国で協定を結んで、各国の法人最低税率を15%にしようとするものである。一国だけで法人税率を引き上げると、資金が税率の低い他国に流れてしまうが、それをG20の共同歩調で防ごうとする提案で、法人税率が高い先進国、特に財務当局も当然喜んで参加し、その成功を期待している。

MMTの下では切実さも薄まる

しかし、この「法人最低税率の国際協調」の提案には少なくとも3つの壁がある。

第1に、法人税の課税は、外国で得た所得に対して、その国に加えて本国でも課税されて二重課税が発生するので、そもそも望ましくないという考え方が、特にアメリカの共和党支持者の中にある。バイデン大統領(民主党)が国際的に提案を納得させても、米国議会での国内の反対により「国際協調」は実現しにくいという考え方である。これに対して、民主党系に支配的な考え方によれば、所得再分配の公正上、十分に税負担をしていない高額所得者が存在するときには二重課税になっても構わないということになろう。アメリカは日本と違って議院内閣制ではないから、大統領が決めた国際取り決めを議会が反対することは少なくない。

第2に、税収を上げたいというバイデン大統領の提案は、政府の財政収支は均衡しなくてはならないという基本的前提から出ている。しかし、MMT(現代貨幣理論)の言うように、インフレにならない限り、各国は財政収支を気にしなくて構わないということになれば、「国際協調」提案の切実さも薄まる。法人税の競争があるから、財務当局の思うように課税するのが当然という考えも、ダーク・ホースの経済理論MMTの下では絶対的な前提条件ではなくなる。

第3に、「タックス・ヘイブン」諸国には、G20に含まれない多数の国々があることである。現在の国際法の現実によれば、例えば国連であっても法的な強制力は十分でなく、各国をその意に反して規制に従わせるわけにはいかない。すでに、アイルランドは、「法人税の国際最低税率」設定の提案に対して、それが実現すれば20億ユーロの利益が失われると抗議している。こうした国々をどう説得し、さらにG20以外の各国をどう説得できるかが、この提案がうまくいくかどうかのカギとなる。