人は自分で自分に「呪い」をかける

社会に広く浸透しているイメージや固定観念に合わせてしまうことを、「ステレオタイプ脅威」といいます。人はある集団に属すると、その集団が持つ社会的イメージに自分のパーソナリティーを合わせるように思考し、行動してしまうのです。

脳科学者の中野信子さん
撮影=川しまゆうこ
脳科学者の中野信子さん

なかでも強力なのが、性別によるステレオタイプ脅威でしょう。

かつてアメリカで、男女の学生に「メンタルローテーション」(※)を測る実験が行われました。これは一般的に男性が優位とされる能力で、実験では答案用紙に「性別」と「大学名」を書かせたグループに分けて、女性に、男性のほうが得意なテストであることを意識させる準備操作をしました。

※メンタルローテーション:頭のなかで2次元または3次元の物体を回転させ、その物体を認識する能力

すると、性別を書いたグループの女子学生の正答率が、大学名を書いたグループに対して低い結果になったのです。女性はこのテストが苦手だと意識させられたことで、「わたしはこのテストでいい結果を出すべきではない」と無意識に自分にブレーキをかけてしまい、パフォーマンスが低下したと考えられるのです。

人は社会から与えられたイメージに従って、簡単に自分で自分に「呪い」をかけてしまう生き物なのです。

協調戦略はどこまで正しいか

「同調圧力」や「ステレオタイプ脅威」はどんな社会にも見られます。

しかし、いまのような変化が激しく、多様性に対応することが求められる時代には、まわりに協調するだけでなく、「自分の考え」をはっきりと主張できる力が求められると思います。

まわりにいる誰かが“正解”を知っているわけではなく、ましてや自分が属する社会が正しい方向へ進んでいるかも定かではありません。そんなときこそ、自分の頭で考え、判断し、行動できる「協調し過ぎない」姿勢が大切になるでしょう。

ちなみに協調性が高い人は、協調性が低い人よりも収入が低いとする研究結果もあります。

協調性が高過ぎると、まずまわりと合わせようとしたり、簡単に他人の意見に同調したりして、その人独自のオリジナリティーを発揮しづらくなることが考えられます。また、安易に同調することで、逆に悪意ある人からつけ込まれる可能性もあります。

協調性そのものは、社会で生きていくうえで確かに大切な資質かもしれません。しかし、協調し過ぎるのは、いまの時代にはあまり「賢い戦略」とはいえないのでしょう。