80代の独居女性の家にあった「大量の食品」
排除され、孤立に陥ったゴミ屋敷の住人も、自分でゴミを片付けることはできないが、人に迷惑をかけられない。そう考えて、自分の殻に閉じこもってしまうのかもしれない。そして誰かと過ごすのではなく、物をためて、物に囲まれて生きていく。
そんな孤立したゴミ屋敷の住人が全員「ためこみ症」かというと、それは違う。物がたまってしまう状態を「ためこみ行動」というが、それと「ためこみ症」という疾患は区別されている。ためこみ行動を起こす要因としては、ほかの精神疾患「強迫症」「統合失調症」「認知症」、発達障害の一種である「注意欠如・多動症(ADHD)」などが挙げられる。
約20年前に夫を亡くし、認知症の傾向がある80代女性が住む家の整理依頼があった。80代女性は戸建に一人暮らしで、現在は体の治療のため病院に入院している。依頼主は、離れて暮らす女性の姪。「(80代女性が)退院するまでに、通常の生活が送れる環境を整えてほしい」ということだった。
一人暮らしなら数カ月は暮らせそうなほどの量
石見さんを筆頭に、同社の作業員と私の合計7人で室内に足を踏み入れた時、それほど生ゴミ臭はなかった。しかし奥に進むにつれて生ゴミの山が。特にリビングや台所で、食べかけのインスタント類が次々に見つかった。物を持ち上げるたびにゴキブリが出没し、食べかけの食品にはゴキブリの卵とみられる茶色の米粒状のものも……。
「食事内容を覚えていないのは『物忘れ』で、食事をしたかどうか覚えていないのは『認知症』」とよくいわれるが、これが認知症の典型症状の家だと感じた。
インスタントの焼きそばは、灰黒色になっていた。カビがびっしりと生えていて、もはや麺の面影はない。何も知らない人がこれを見たら、「粘土」と思うはずだ。この家に住む高齢女性は、焼きそばの容器にお湯を注ぎ、できあがって食べかけたところで、何かほかに気になることができたのだろうか。
大型冷蔵庫の中は、まったく隙間がないほどびっしりと食品が詰まっていた。
さらにその横には小型冷蔵庫があり、そこにも食品が詰まっている。テーブルの上にも下にも食品が散乱し、一人暮らしなら数カ月は暮らせそうなほどの量だ。寂しさを食品で埋めているように私は感じた。