Jacques Attali
1943年生まれ。アルジェリアの首都アルジェ出身。フランスのエリート養成機関であるグランゼコールを卒業後、38歳にしてミッテラン大統領の大統領特別補佐官に抜擢され、頭角を現す。現サルコジ政権の知恵袋、「アタリ政策委員会」のトップとして、フランスの財政再建政策のカギを握る人物として知られる。
大前研一
1943年生まれ。横浜市出身。マサチューセッツ工科大学大学院博士課程修了。日立製作所を経て、マッキンゼー・アンド・カンパニーの日本支社長を務めた。当時、中曽根康弘元首相の知恵袋としても活躍。現在はビジネス・ブレイクスルー大学の学長として政策提言のみならず社会・教育分野に精力的に活動。

【アタリ】これまでヨーロッパでは隣国同士の戦いなど、数々の脅威をくぐり抜けてきました。今日でもグローバリゼーションという脅威は存在しますし、もちろんEU崩壊の脅威も感じています。

一方、日本の場合は脅威の存在そのものを否定する理由がたくさん存在します。まず島国であること。とりあえずは外敵が目に入らないから、国民の間にサバイバルしようという動機が乏しい。さらに日本は膨大な資産を持っています。これも危機感が乏しくなる原因です。

多くの日本人は危機感が乏しく、現状に満足しているのではないでしょうか。しかし、現状維持という希望は国民がサバイバルに向けた決意を固めない限り実現しないのだということを、日本国民はきちんと理解することが重要です。迫りくる脅威を無視したり、傍観しているだけでは、極東の片隅にある日本は忘れ去られ、坂を転げ落ちるように衰退することになるでしょう。そうなれば日本人の購買力は衰え、平均寿命は短くなり、公教育の授業料を負担することさえも難しくなります。要するに日本人は現在の生活レベルを維持することができなくなる。日本は19世紀末からわずか百数十年の間に世界のトップに駆け上がったわけですが、転落もまた早いでしょう。

私の日本に対するアドバイスは「まずは危機感を持て!」ということです。大前さんのような俯瞰的に状況を把握できる方が日本の将来像、「2020年の日本」のようなものを作成して示すことも、危機感に乏しい日本人を覚醒させることになるのではないでしょうか。

【大前】15年前、私は「今、目を覚まして問題に取り組まなければ、日本はポルトガルやスペインのような運命を辿ることになる」と警鐘を鳴らしました。日本人の平均年齢は05年には50歳近くになることから、05年までに日本は何としても変わらなければいけないと主張したのです。

1992年から「平成維新の会」という市民運動を組織し、05年までに改革を実現するために、私財をつぎ込んでこの市民活動に専念しました。しかし、残念ながら日本を変えることはできませんでした。市民運動を国民全体に拡大させるだけの能力が私に足りなかったのかもしれません。

ではアタリさんのような知性溢れる知識人が日本に対して何らかの処方箋を提示すれば、日本に奇跡は起こるでしょうか? 私にはそうは思えない。日本に奇跡は起こらない。ヨーロッパにも、アメリカにも、中国にも奇跡は起こらないでしょう。それが“現実”というものです。

日本は近い将来、恐らく、1年以内、遅くとも2年以内には債務危機の問題に直面すると思います。賢明な国民であれば自分たちの貯蓄で政府債務を買い支える以外に方法がないことは理解できるはずです。国家債務危機を解決するマジックなど存在しない。