「勉強しなくてもいいけど自分に返ってくる、全部、自分の責任だ」
両親には、本を読めとか、勉強しろとかはあまり言われませんでした。ただし、父親からは「勉強しなくてもいいけど、将来の自分にすべて跳ね返ってくるぞ。それは全部、自分の責任だ」と。これは、子供ながらに怖かったですね。結局、勉強をやらざるをえなくなりました(笑)。
その影響もあってか、僕はサッカーも勉強も中途半端が嫌で、小学校から大学まで、授業中はしっかり集中していました。文武両道とまでは言い難いけれど、「サッカーは百点、勉強は80点くらい」を目指していた。ただ、サッカーを全力で追求すると、帰宅後はくたくたで余力がなくなる。だから、勉強は授業中に完結させていました。ここで培った集中力は、サッカーでも役立ちました。
子供たちには、「サッカーがうまくなりたければ、授業に集中しなさい!」とアドバイスしたいですね。
プロ1年目で中村憲剛を覚醒させた「絶望を希望に変える一冊」
というわけで、子供時代の僕にとって、活字、読書といえば、マンガと教科書でした。本を読みだしたのは、プロ選手になってからです。
大学を卒業すると、教科書がなくなって読むべき活字がなくなってしまった。自分から望まないと、活字がどんどん離れていく状態に陥りました。それに、Jリーガーって意外と自由時間が多いんです。午前中に練習したら午後はフリーとか、試合のある日も長い移動の時間があったりで。気づいたら、そこに活字を欲する自分がいたんですね。読書は苦手だと思っていたけれど、そうではない自分を発見しました(笑)。
そして、プロ1年目に印象的な本に出合ったんです。レーシングドライバーの太田哲也さんが著した『クラッシュ 絶望を希望に変える瞬間』という一冊で、太田さんがレース事故で瀕死の重傷を負ってから、レース復帰を目指して壮絶なリハビリを経て回復していく経緯が、こと細かに綴られています。
当時の僕はレギュラーではなく、試合に出たり出なかったりで、「プロ選手としてやっていけるのか」とかなり悩んでいた時期でした。そんなときに、太田さんの本に触れて、自分の悩みはなんとちっぽけで恥ずかしいものかと。元気にサッカーをやれる状況に感謝して全力で頑張ろうとこのとき思ったんです。プロになったばかりのタイミングでこの本に触れられたのは大きかった。以来、本の虫です。