「わが子のレジリエンスを引き出す声かけ」3ポイント

心と体が少し落ち着いたら、次に、子どもたちが自分の考え方に対応できるようになり、かつ、どんな局面でも立ち直ることができる、「レジリエンス」の力を育てるための働きかけが大切です。

そのポイントは、次の3つです。

①「実際にそうなったときはどうすればよいのか?」をいっしょに話し合い、確認する

たとえば、「もし感染したら○○病院で治療してもらおう」「勉強は、先生が補講をしてくれるね」「検査で陰性になれば、人にうつすことはないよ」などと、具体的な解決策や対処法を親子で確認します。

こうすることで、子どもの不安の大きな原因となっている「先の見えなさ」を緩和かんわすることができます。子どもは「いざというとき」のイメージを具体的に持つことができ、「何があっても対処は可能」と実感することで、心が落ち着きます。

②日常的に子どもの考えや気持ちを言葉にして外在化する

「自分の考えや感情と距離を置き、変えることができる」と、認識する練習をします。そのために効果的なのが、気持ちを擬人化する方法です。

たとえば、「“イライラくん”が来た」とか、「“不安さん”がずっと胸のあたりにいる」などと自分の気持ちを擬人化したり、名前をつけたりすることで、子どもは感情を自分の心の外に取り出し、客観視しやすくなります。

親としても、「気にするのをやめなさい」とか「もっと前向きにならないと」などと子どもの考えや行動をどうにかしようとする意識から、「“不安さん”にいっしょに対応しようね!」などと、子どもと同じ目線でネガティブ感情に対処するような姿勢になることができ、子どもは親が自分の味方でいてくれる安心感を抱けるようになります。

③「どんな感情もずっとは続かない」ことを思い出させる

ネガティブ感情は、しっかりと感じることができれば不必要な部分を和らげることができ、長く続くこともありません。

そのため、お母さんには「小学校に上がったときや習い事を新しく始めたとき、不安だったよね。その不安はずっと続いたかな?」と質問してもらいました。すると娘さんは、「小学校に上がったとき、とても緊張したけど、すぐに慣れていったんだ……」と過去の事実を思い出すことができました。

このように、感情は変化していくこと、そして、「今のこの不安な気持ちにも終わりがある、ずっとは続かないんだ」とイメージすることも、困難を乗り越える力になってくれるのです。

小学4年生の母娘にこの一連の働きかけを実施してもらったところ、娘さんは気持ちが落ち着き、眠れるようになりました。「徐々に元気も取り戻していくことができました」と、お母さんはうれしい報告をしてくれました。

「好きなこと」「楽しいこと」を意識する

また、問題解決だけに注目するのではなく、その子の「好きなこと」「楽しいこと」を意識的に取り入れる方法も有効です。

コロナ禍でのオンライン学習になじめず、友人たちとの交流がなくなり、気力を失い、学習へのモチベーションが下がってしまった男子高校生のケースです。

私は、このご家庭に、学習面にアプローチする前に、家族で映画を見たり、ゲームをしたり、いっしょに料理をするなど、家族のコミュニケーションを意識的に増やすことをすすめました。

そうすることで、高校生の息子さんは、誰かといっしょに時間を過ごす「楽しさ」という、彼にとってエネルギーとなるポジティブな感情が生まれ、心身の状態が良くなっていきました。とくに、彼は他者と楽しい時間を過ごすことがモチベーションになるタイプだったため、オンライン学習の時期は、ポジティブ感情のエネルギーが枯渇してしまっていたのです。

たとえ5分、10分でも、夢中になって楽しむ時間をつくることで、ポジティブ感情が生まれます。それにより、気力を取り戻すきっかけになることはよくあることなのです。

エネルギーを蓄えた彼は、徐々にオンライン学習に前向きに取り組むことができるようになりました。心身のコンディションが良くない中で無理に学習を進めようと躍起やっきになるより、ポジティブ感情を呼び覚まし、心のエネルギーが向上する活動をすることが、“急がば回れ”で有効なケースも多いのです。焦ってはいけません。