子どもの数とともに女性の満足度が低下する2つの原因
図表2の結果が示すように、子どもの数が増えるほど、女性の生活満足度は低下していきます。社会全体としては子どもの数が増えてほしいけれど、その結果として、女性の満足度が下がってしまう。
これは、日本の社会が直面する「大きな矛盾」だと言えるでしょう。
この原因について考えていくと、子ども自体が女性の満足度を低下させるわけではなく、「お金の問題」と「夫婦関係の問題」が主な犯人ではないかと考えられます。
子どもの数が増えるほど、どうしてもお金がかかっていきます。子どもの数とともに食費、被服費、教育費等のコストが増え、生活を圧迫する。近年、不安定な雇用形態で働く人も増え、賃金が伸びづらくなっている状況を考えると、子どもの金銭的負担は大きな課題です。
また、子どもの数が増えるほど、「夫と妻」の役割よりも「父と母」の役割の比重が増えていきます。「父と母」の役割において、お互いの期待にそった働きを十分に果たせていなければ、夫婦関係に深刻な亀裂をもたらす恐れがあるわけです。夫婦間の家事・育児分担は、このような亀裂の原因となる典型的な例だと言えるでしょう。
お金と夫婦関係、どちらのインパクトが大きいのか
お金と夫婦関係の問題は、子どもの増加による女性の生活満足度低下の原因になると考えられますが、ここで重要なポイントは、「どちらがより大きな影響を及ぼすのか」という点です。
なぜならば、どちらが主要な原因なのかによって、対策が変わってくるからです。
もしお金が主な原因であれば、子育て世帯への金銭的補助をより厚くすることが望ましい対策になります。
また、もし夫婦関係の悪化が主な原因であれば、夫婦関係のケアが望ましい対策になります。第1子出産後に夫婦関係は急速に悪化することがわかっているため、夫婦関係を直接的に支援する「出産後学級」などの対策が考えられます。
夫婦関係の悪化は「家族の問題」として捉えられ、自分たちだけで解決しようと考えがちです。しかし、出産後の夫婦関係の悪化は、その後の結婚生活だけでなく、「もう一人」の出産にも深刻な影響を及ぼす恐れがあります。このため、外部の力を活用したケアを検討することも重要となるわけです。
では、日本ではお金と夫婦関係のどちらが大きな影響を及ぼしているのでしょうか。
最近の日本の研究結果から、お金と夫婦関係の両方が女性の満足度低下の原因になっているが、その影響度は「夫婦関係の悪化の方がかなり大きい」ことがわかりました(※1)。これは、欧米の研究では経済的な要因が大きいと出ていることとは対照的です。
この結果から、夫婦関係の悪化を防ぐことが子どもの数の増加にともなう女性の満足度低下を阻止するカギとなりそうです。
※1 佐藤一磨(2021)子どもと幸福度-子どもを持つことによって、幸福度は高まるのか-, PDRC Discussion Paper Series DP2021-002.