高コストと供給網不足という大問題
水素は、再エネ由来のグリーン水素、化石燃料由来のブラウン水素、ブラウン水素の製造過程でCO2を回収してCO2フリーとしたブルー水素などがある。最も低コストのブラウン水素でもガソリンに比べて高く、日本政府が掲げる目標の4倍以上の価格だ。
商業ベースに乗るにはかなり道のりがある。EVの電費が、ガソリン車の燃費よりも経済性があるのとは対照的だ。
加えて水素は、まだ供給網が確立されていない。トヨタが水素戦略を推し進め、政府がそこをある程度バックアップしている日本ですら、現時点で全国に130強の水素ステーションしかない。EVに関して充電インフラ不足が懸念として指摘されているが、充電インフラが2019年時点で2万を超えている現状から鑑みれば、そのインフラ不足は明らかである。
世界を見ても、アメリカ、欧州、中国いずれもEV充電スタンドの大規模増設を方針と打ち出しており、また、スタンドさえあればそれらの国では自由に電気にアクセスできるのに対して、水素はまだそうしたアクセスも確立されていない。
したがって、現時点の比較でみると、あくまで燃料電池車(FCV)とEVの比較では、EVの方が競争力を有しているという指摘は妥当なのである。
「水素自動車は乗用車」と決めつけてはいけない
無論、こうした状況をトヨタはもちろん認識している。EVを決して排除しているわけではなく、今年の決算発表では蓄電池を搭載したバッテリー電気自動車(BEV)のラインナップの拡充することにも触れている。
しかし、「焦らず、水素戦略を実行していけばよい」というのがトヨタの立場だ。そして、著者には、トヨタがEV化の盲点を突く考えを持っているように思う。
先ほど、大きな問題としてコストと供給網不足を列挙したが、こちらについては、理論上、需要が増えれば、供給量も増えるので規模の経済が働き、コストが低減していく。その結果、コスト安を受けてさらに需要が拡大していくので大した問題ではない。水素利活用が世界的に始まったいま、時間が解消する話である。
最も重要なのは、トヨタは水素を乗用車の文脈だけに限って考えているわけではないという点だ。トヨタが開発しているFCスタックと呼ばれる燃料電池は、水素を原料とした高性能発電機と捉えた方がもはや適切な状況にある。
初代MIRAI用に燃料電池(FC)システムを開発して以降、トヨタはさまざまな業界と対話をしてきた結果、汎用性のあるFCシステムの需要があることつかんだ。第2世代のFCシステムは、乗用車以外の転用を念頭に、コンパクトかつ高性能な仕様を実現させている。
モジュール化されたFCシステムは、トラック・バス・鉄道・船舶などのモビリティや定置式発電機などさまざまな用途に活用することが可能となったとトヨタは説明する。