問題は子どもではなく環境にあるかもしれない

事例1
高校1年生女子。入学してみたらとても規則が厳しくて先生たちの言うことが理不尽で納得できないから退学したいと言います。話を聞いてみると本当に学校の対応は非合理で、退学したいと思うのももっともに思われました。でも母親はせっかく入学した学校を退学したいという自分の子どもが理解できません。不登校状態が続いているので、心の問題ということで、親子でカウンセリングに来たわけです。
私はこの「クライエント」は非常に健康な方だと思いましたので、カウンセリング終了後に先輩にそう言いました。そして叱られました。高校生にとって学校という場所は友達に出会ったり勉強したりする大切な場所で、カウンセラーはそこに行けるようにするのが仕事だろう。子どもの言うことを鵜吞みにしてどうするのだということでした。
彼女は自分にはカウンセリングは必要ないと言って3回目から来なくなりました。のちに学校は退学し、母親のカウンセリングが継続されました。私は今でも、女子生徒の退学は正しい選択で彼女は健全な方だったと思っています。
事例2
ある高校生の男の子は、有名進学校に入学したものの学校に行けなくなってしまい、家に引きこもってずっとネットにはまっていました。知人に紹介された発展途上国でのワークキャンプに参加したところ、徐々に自分の知らない熱い人間関係の中で心の傷が癒やされ、人と自分への信頼を取り戻し、帰国してからもキャンプで知り合った仲間たちとの関係を続けて勉強を始め、希望する大学に入りました。
彼に必要だったのは、カウンセリングや医療よりも、広い世界を知り、温かい人たちに出会い、汗を流して働く体験だったようです。
事例3
ある小学校1年生の男の子は、コロナ禍で4月からしばらく学校に行くことができず、夏前に登校が始まってから先生や友達との関係がうまく築けないまま、まもなく学校に行けなくなってしまいました。家で暴れたり親から離そうとすると泣き叫んで手がつけられなくなったりしたため、カウンセリングを受けたところ、発達障害と言われて投薬され、療育を勧められました。
たまたま私と出会う機会があって親子の様子を見ていたら、お母さんがとても優しい方で、彼の言い分を聞いて何とか対応しようとしています。いいお母さんでいよう、彼を傷つけないようにしよう、叱らないようにしようと必死の様子を見て、学校の担任の対応との落差が激しかったのだろうと思いました。そして、男の子が自立できるようにお母さんのほうから離れていくことや環境要因の調整などを数分アドバイスしたところ、2週間後に連絡があり、子どもが自己コントロールができるようになってきて、薬も療育も必要なくなったとのことでした。

これらの事例からわかることは何でしょうか。心の問題や発達の障害であると言われていることが、実はその子どもの問題というよりも「環境調整」で改善する問題である場合があるということです。