“バブル”の兆候が出始めている
足許で、米国やわが国をはじめ世界的に株式市場が不安定な展開になっている。特に、これまで世界の主要株式市場を牽引してきた米国市場の下落が目立った。GAFAMやテスラなど、相対的に成長への期待が高い先端企業(グロース銘柄)が中心のナスダック総合指数の下げが大きかった。
これまで圧倒的な上昇相場を形成してきた、先端のGAFA銘柄はかなり高値にあった。多くの投資家が、そろそろ利益確定の売りに動くタイミングだったといえるだろう。そこに消費者物価の上昇懸念が重なった影響は大きい。4月の米消費者物価指数は前年同月比で4.2%上昇し、事前予想(3.6%程度)を大きく上回った。インフレ懸念の高まりから先行き警戒感を強める投資家は多く、売りが売りを呼ぶ格好で下落幅を広げる展開になった。
今後、米国の株式市場はグロース銘柄を中心に不安定に推移した後、徐々に値を戻す可能性はあるだろう。今回の株価下落は、本格的な調整には至らない可能性がある。現在、連邦準備理事会(FRB)は低金利環境の維持を重視しているため、カネ余りの状況に大きな変化はないとみられ、それが株価の下支え役を果たすことが予想される。
ただ、株価がいつまでも上昇し続けることはない。特に、パウエルFRB議長が株式市場に“フロス(小さな泡)”が出始めているとの認識を示すなど、米国の株式市場には“バブル”の兆候が出始めている。やや長めの目線で考えると、どこかのタイミングで米国の株式市場全体が本格的な調整局面を迎える可能性はあるとみた方がよさそうだ。
テスラの株価収益率は500倍にも
5月に入ってナスダック総合指数をはじめ米国の株式市場が下落した要因の一つは、なんといっても株価があまりに上昇し過ぎたことだ。例えば、2020年5月上旬、電機自動車(EV)メーカーのテスラの株価は150ドル程度だった。その後、2021年1月下旬テスラの株価は800ドル超まで上昇した。2月以降の株価は幾分か下落したが、4月下旬の株価は700ドル台と1年前の株価水準を大きく上回る水準にあった。
足許、テスラのPER(株価収益率、5月13日時点の米ウォールストリートジャーナル公表の実績値ベース)は500倍を超え、過去の平均的な米国株式市場のPER(14~17倍)を大きく上回っている。つまり、株価は割高だ。2020年のテスラの納車(新車販売)台数は前年比36%増の約50万台であり、トヨタ自動車単体の販売台数(約870万台)との差は大きい。
株価上昇のかなりの部分がカネ余りと成長への過度な期待に支えられている。世界的なEVシフトという成長テーマに加えて、テスラが技術革新を目指していることは重要だが、現在のテスラの株価を正当化することはできない。ワクチン接種の進展が米国経済の自律回復の勢いを支える中で在来分野の企業の株価が持ち直した結果、そうした見方を持つ投資家は増えた。