ある介護施設に入職した大卒の新人は、たった1週間で退職してしまった。現役介護職員の真山剛氏は「施設の中にはナースコールを切ってしまうなど、手抜きをするところがある。一方で、私のいた施設では先輩職員の指導があまりに厳しすぎるため、職員の入れ替わりが激しかった」という――。(第2回/全2回)
※本稿は、真山剛『非正規介護職員ヨボヨボ日記』(三五館シンシャ)の一部を再編集したものです。
「もし地震があったら、ガス爆発よ」
朝、「おはようございます」と、挨拶しながら幸助君は入居者の個室に入った。
彼から聞いたありのままの話を時系列に記す。「カーテン開けましょうね」と彼は部屋の主、永吉やす子さんに話しかけながら窓際へ近寄り、カーテンに手をかけた。そのとき、ベッドに横になった状態の彼女が「外の様子はどう?」と彼に尋ねた。
彼はカーテンの隙間から外を見て「雨のようですね」と答えた。「雨ならカーテン開けないで。最近、雨を見ていると気分が滅入るから」とやす子さんが幸助君に注文をつけた。
彼は入居者の希望が最優先だと考え、カーテンを閉め直し、室内灯をつけた。やす子さんは「ありがとう」と彼に向かって微笑んだ。
それから1時間後、幸助君は再びやす子さんの部屋にいた。彼の傍らには職場の施設管理者・北村照美の姿があった。57歳のバツイチ女性、めったに笑わないが、笑った顔は元横綱・朝青龍に似ている。
私が入社し、1週間ほど経った夜勤のとき、炊事場の3つあるガスの元栓の一つをうっかり閉め忘れたことがあった。同じ管のうちの大もとの一つを閉め忘れたのだった。朝、それに気づいた北村が激怒した。
「真山さん、もし地震があったら、ガス爆発よ。これ常識」
2つはしっかり閉めてあるので、それはないと思ったが、言い訳しても火に油を注ぐことになる。ミスをしたのは事実なのだ。私はひたすら「すみません。以後気をつけます」と頭を下げた。ここは耐えなければならない。