入居者の要求を無視する介護施設
実際、介護福祉士の友人は気まじめな男で、私が介護の世界に入る前から職場の不満をよく口にしていた。彼から、問題のある上司とか、よくない施設の話をよく聞いた。
彼が今までいた施設で一番腹が立ったのは、頻繁にナースコールを押す入居者の電源を切るように上司から指示されたことだという。つまり入居者の要求を無視するのだ。ベッドから降りる際に鳴る、足もとのセンサーマットの電源をオフにしていた施設もあったという。
それ以外にも深夜に徘徊する人に、規定以上の睡眠薬を服用させたり、尿取りパッドを4時間おきに替えないといけないところを、夜勤者が睡眠をとりたいがために、2枚重ねにして手間を省いたりすることもあるらしい。
朝、利用者にラジオ体操をさせなければいけないのに、「みなさん、最近お疲れみたいで、血圧も高めですから今日は休みましょう」と、無理やり理由をつけて、何日もその作業を怠る施設もあったという。
ただ親族が面会に来ると、そのような老人ホームに限って職員が信じられないくらいの愛嬌をふりまく。中にはろくに食事を温めないで出す老人ホームがあったり、テレビを観ながらオムツを替える職員もいたという。人を人として扱わないのだ。
いじめを受けた新人は1週間で辞めてしまった
友人はそのときのことを施設長や上司に訴えたが、彼らは見て見ぬふりでやりすごし、まったく改善されない職場も多かったという。結局、人手不足がその原因の根底にあるようだった。
その点、私の勤務する施設では職員の入れ替わりは激しいが、職員が手を抜いたり、横着な作業をするようなことは一切ない。皮肉にも北村による厳しい監視のおかげでそんなことはできないのだ。結局、幸助君は、わずか1週間でここを去っていった。私は幸助君になんの力にもなれなかった。