優秀な人に囲まれると「有能感」は低下する

こうした現象は、「大きな池の小さな蛙になるよりも、小さな池の大きな蛙になるほうがよい」という意味で、心理学では「井の中の蛙効果」と呼ばれています。冒頭で紹介した「鶏口となるも、牛後となるなかれ」とも似た意味です。

ちなみに、「井の中の蛙大海を知らず」という格言もありますが、こちらは、狭い世界に閉じ込もっている井戸の中の蛙は、広い世界があることを知らないで、いばったり自説が正しいと思いこんでいたりすることを意味しており、心理学で用いられる「井の中の蛙効果」とは少しニュアンスが異なっているので、注意してください。

あらためて、学術的に説明すると、心理学で用いられる「井の中の蛙効果」は、同じ成績の生徒であっても、レベルの高い集団に所属していると、優秀な生徒たちとの比較のために有能感が低下し、レベルの低い集団に所属していると、自分よりも劣った生徒たちとの比較のために有能感が高まる現象のことをいいます。

心理学者のマーシュが行った44校の高校生7727名を対象にした調査では、同じ能力(成績)の高校生において、所属している高校の偏差値が高くなればなるほど、その人の有能感が低くなることが示されています。

ここでは、集団の例として「高校」を取りあげましたが、もちろん、高校に限らず、学校単位だけではなくクラス単位だったり、大学にも当てはまる現象です。

さらには、この現象は勉強だけに当てはまるわけではありません。高校までは野球がうまくて注目を集めていた選手が、野球がとても強い大学(あるいは実業団)に入学(入団)して、自分よりも優れた選手を目の当たりにすることで有能感が低下し、すっかりやる気を失い、最終的には能力以下の成績しか収めることができなかったという例も、よく見られます。

このように、「井の中の蛙効果」といった不思議な現象がいろいろなところで見られることは、心理学のさまざまな研究を通して確認されています。

「有能感」とはなにか

先ほど、「井の中の蛙効果」の説明のところで「有能感」という言葉を使いました。これは少し聞きなれない言葉だと思いますので、少し説明をしておきたいと思います。なお、有能感は、心理学では「コンピテンス」や「自己概念」と呼ばれることもあります。

女子高生
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有能感とは「自分は○○ができる」、「自分は○○が得意である」、「自分は○○が苦手である」といったように、○○に対する自信のことを指します。

先の例では学校での成績の話だったので、「自分は勉強ができる」、「自分は勉強が苦手である」といった勉強に対する自信のことを指しています。

スポーツに関してであれば、「自分は運動が得意だ」、「自分はスポーツが苦手である」といったものになりますし、友だちとの関係だったら、「自分には友だちがたくさんいる」、「自分は友だちに嫌われている」といったものが有能感になります。