時代の趨勢はセキュリティー対策から個人情報保護へ
個人情報保護委員会や総務省の調査では、個人情報の漏洩などについて「明確な法令違反は確認できなかった」とされたが、利用者の不信感は逆に高まったようにみえる。
実際、ネットの世界は、個人情報がどのように管理されているのか、利用者には見えにくい。それでも、国民の7割がLINEを利用しているのは便利さだけでなく「巨大企業だからちゃんとしているはずなので大丈夫」という根拠のない安心感があったからだ。
それが「問題あり」として業務改善を指導されたのだから、安心感は抜き差しならない不信感に変わってしまった。
「LINE疑惑」の本質は、LINEのデータガバナンスに行き着く。
個人情報の保護を厳格化する流れは時代の趨勢で、かつてはセキュリティー対策が焦点だったが、いまや関心は情報管理のあり方に移っている。欧州連合(EU)では一般データ保護規則が2018年に適用され、日本も2020年に個人情報保護法が改正された。
社会インフラとして個人情報を大量に扱うLINEは、そうした世界的な潮流に、もっと敏感でなければならなかった。
「『気持ち悪い』という点への配慮が欠けていた」
中でも重要なのは、個人データの海外委託は常に危うさがつきまとうことを熟知していたのか、という点だ。どの国にも、それぞれの法律やルールがあり、外国企業もそれに従わなければならず、十分すぎるほどの安全管理措置を講じなければならない。
特に中国は、国家がネットを監視する体制を敷き、2017年には企業に政府への情報提供を強いる国家情報法が成立するという、個人情報をめぐる重大な環境の変化があった。LINEの利用者情報を中国の委託会社が閲覧できる状態になったのは、その後だ。これは「お粗末」としか言いようがない。
ところが、出澤社長は記者会見で「ユーザーの感覚として『気持ち悪い』という点への配慮が欠け、そこに気を回すことを怠っていたのが一番の問題だ」と吐露したが、この受け止め方はポイントが少しずれている感が否めない。
しかも、「データはすべて日本にあります」と説明してきたにもかかわらず、画像や動画のデータを韓国のデータセンターで保管していた事実は、利用者の不信感を著しく増幅させた。
政府や自治体と違って、民間企業では利用停止のドミノが起きていないのが救いだが、今後の展開は予断を許さない。
LINEは、もともと韓国IT大手ネイバーの日本法人だったが、今年3月にヤフーを傘下にもつZHDと経営統合して、「日の丸プラットフォーム」の雄としてスタートしたばかり。
一度失った信頼を取り戻すのは容易ではなく、利用者の信頼回復への道のりは長くなりそうだ。