韓国の司法には相当根の深い「異見」がある

第一は、文在寅大統領が、バイデン政権下でアメリカから「日韓の連携」を強く求められることを予測し、1月18日の記者会見で、原告勝訴の判決に「少し困惑」し、「2015年合意は公式合意」と発言、法曹界もその意向を忖度する動きが出て、これが4月21日判決の背景になったという見方である。

裁判所
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第二は、内政的には、4月7日行われたソウル市長、釜山市長をはじめとする再・補欠選挙で、保守系野党が圧勝し、21の自治体で行われた選挙の中で、与党が勝ったのは4人のみとなったためと見るものである。来年の大統領選挙で保守系候補が勝てば、日韓関係の改善を求める可能性があり、一次訴訟を担当した裁判官の3人が「異動」したこともあり、裁判官が保身を図ったとの見方もある。(佐々木和義、「デイリー新潮」4月23日

さらに第三に、もともと1月の時点から、第二次訴訟は、1月8日判決とは違う判決を出す予定であり、二つの判決の整合性をどうとるかが慎重な検討対象になっていたという説がある。その結果、判決日が4月21日に延ばされたという分析が1月30日に現れている。

大統領の意向とは違った次元で、韓国の司法には相当根の深い「異見」があるようである。(堀山明子毎日新聞ソウル支局長「韓流パラダイム」2021年1月30日

1月8日の判決を出したソウル中央地方法院民事34部が2月の定期異動で構成員が変わった後(部長がキム・ジョンゴンからキム・ヤンホへ)、3月29日に判決の一部を覆し、「訴訟費用を日本政府が負担する必要はない」と判示したのも両訴訟を同じ方向性に合わすための周到な用意のように見える。

「元慰安婦第二次訴訟」の最も重要なポイント

いくつかの楽観を許さない要因(後述)があるとはいえ、元慰安婦訴訟に主権免除を適用するという今回の判決は日本政府にとっては朗報であることは間違いない。

今回の元慰安婦第二次訴訟の最も重要なポイントは、この判決が主権免除の対象になるかならないかの論点のみにしぼってなされている点にある。(渡邊康弘FNNソウル支局長、4月22日の判決テキスト解題による

第一に、慰安婦に対する日本政府の行為は、強硬規範に違反した反人道的なものなので、主権行為として日本政府はその責任を免除されないという原告側主張に対し、「主権免除は、国家の主権的な行為であれば行為の性質いかんにかかわらず免除される」という最も本質的な点が指摘されている。

第二に、国際司法裁判所(ICJ)の先例で、ドイツがイタリアに対して行った行為に主権免除を認めたのは、ドイツとイタリアが戦争状態にあったからであり、日本の植民地であった韓国と日本は戦争状態になかったので日本の主権免除は認められないという原告側論拠に対しては、「日中戦争や太平洋戦争を戦っていた日本にとっては本土だけではなく韓国・台湾も銃後の民として日本の主権的行為の中に入るものであり、従って主権免除は認められる」と判示した。

第三に、この訴訟は元慰安婦の最後の救済手段なので却下してはならないという原告主張に対しては、「2015年合意により、死亡した元慰安婦を含む240人のうち、41.3%に当たる99人に現金支援が行われたとし、原告を含む慰安婦被害者のための大まかな救済手段が用意されたことを否定することは困難」と断じた。