秋田犬を飼うモスクワのガリーナ・セリャコワさんは愛犬家のサイト、「animal.ru」で、「秋田犬はコンパニオン犬、または番犬に最もふさわしい。忠誠心があり、寒さにも強い。性格はおとなしく、スタイルは均整がとれて美しい。賢くて、独自に決定を下すこともできる」と書き、秋田犬をロシアに広めた功労者として、秋田犬保存会モスクワ支部長のレオニード・トレチャコフ氏の名を挙げた。

日本人をしのぐ博識ぶり

秋田犬保存会とは、秋田犬を世界の犬種として発展させる目的で、戦前の1927年、秋田県大館市に発足した。保存会は全国に支部を持ち、海外支部も20カ所に上る。現在の会長は遠藤敬衆院議員(日本維新の会)だ。

ロシア支部は2011年にモスクワに設置され、会員は約50人。毎年一度、モスクワ郊外で秋田犬らしさを競うコンテストや親睦会を開いている。

ホテルビジネスで成功したトレチャコフ氏は日本の保存会本部展にもよく参加しており、筆者は3年前に東京でインタビューした。

「秋田犬を飼い始めたのは2007年ごろで、書物やネットを通じて、秋田犬が並外れた忠誠心や知性を持つことを知った。秋田犬はもともとマタギ犬で、雪国の生まれなのでロシアの寒さにも強い。秋田犬系統の犬はロシアには存在しない。ブリーダーとして繁殖させており、ロシアの秋田犬を発展させていきたい。秋田犬保存会と秋田県は、聖地として秋田犬のオリジナルの維持・繁栄に努めてもらいたい」

同氏は日本の秋田犬専門家をしのぐ博識であり、秋田犬の特徴や生態をデータベース化している。「日本の街を歩いて秋田犬に出会うことはないが、モスクワではしばしば遭遇するようになった」という。

モスクワの動物市場では、秋田犬の子犬は1頭平均15万円で取引され、約10万円が相場の日本よりも高価らしい。

「ゆめはいつも私を守ってくれる」

ロシアで秋田犬の知名度を飛躍的に高めたのは、プーチン大統領とザギトワさんだった。

プーチン大統領は2012年、佐竹敬久秋田県知事から東日本大震災での被災地支援のお礼として秋田犬の子犬を寄贈され、「ゆめ」と日本語で命名。大統領は、猫好きの佐竹知事にシベリア猫を贈った

秋田犬はその後、「大統領の犬」と呼ばれ、エリート層の間で飼育する人が増えた。近年は、コジェミャコ沿海地方知事ら極東・シベリアの幹部の間で人気らしい。

秋田犬の写真を見て飼いたがったザギトワさんは、2018年の平昌五輪で優勝した後、秋田犬保存会の遠藤会長から子犬を寄贈され、「マサル」と命名した。ザギトワさんはマサルとのツーショットをインスタグラムで盛んに発信し、人気を呼んだ。