母と娘の対話を通して認知症の祖母が記憶を失くしていくことの意味と、ある種の救いについて描き出した絵本『いつかあなたをわすれても』(絵=オザワミカ/集英社)。作者の桜木紫乃さんは、48歳のときに直木賞を受賞。その後も家族をテーマに多くの作品を発表し、精力的な作家活動を行っている。そんな桜木さんが娘や息子に言い聞かせていることとは――。

年齢を重ねて、よりいい仕事ができるようになる

——改めて『いつかあなたをわすれても』を手にしてみますと、これまで小説で性愛を含んだ男女の関係を描いてきた桜木さんが絵本を出したというのは意外な気もします。

桜木紫乃さん(撮影=原田直樹)
桜木紫乃さん(撮影=原田直樹)

【桜木紫乃さん(以下、桜木)】自分でも想像していませんでした。でも、デビュー前、新人賞に原稿を送っていた頃から親子や家族を描いてきたんですよ。そこに入れた性愛はフックでしかなくて、そうすれば誰かに読んでもらえるんじゃないかという短絡的な考えだったんですね。それから20年経ち、50代の今、性愛を絡めなくても家族の物語が描けるようになった。歳を取るのも悪くないなぁと思っています。いろんなことにとらわれなくなり、物書きとしていい仕事ができるのはこれからという気持ちでいます。

 

——キャリアを重ねてより自由に仕事ができるようになったというのは、仕事する女性にとって希望のあるお話です。

【桜木】常に新しい展開をしていける自分でいたいですよね。仕事の声をかけてもらったときに、「50歳だからできない」「女だから」「お母さんだから」と、できない理由を思い浮かべるより、とにかくやってみて、できなかったときに立ち止まればいいのではないかと思います。

それに、私、人との出会いには自信があるんですよ。今回の絵本についても担当編集者や友人の漫画家さんの温かい応援があり、オザワミカさんにも出会えて、決してひとりで作ったわけではない。そんな関係の中で「この人にやらせてみよう」と思われる私でいたことがうれしいです。自分が大好きなんですよ(笑)。