直木賞作家・桜木紫乃さんにとって初めての絵本『いつかあなたをわすれても』(絵=オザワミカ/集英社)では、孫である少女の視点から認知症になった祖母の“さとちゃん”とその娘、つまり少女の母が一緒に過ごすひとときが描かれ、その中での少女と母の対話が綴られる。歳を重ねて記憶を失っていくことについて、女性の一生について、桜木さんに聞いた――。
初めての絵本、初稿はボツに
——2020年に上梓した『家族じまい』(集英社)では、認知症になったサトミとその娘・智代の関係など、高齢の親と向き合う家族の姿をオムニバス形式で描きました。この絵本も『家族じまい』と同じ世界の物語なのでしょうか?
【桜木紫乃さん(以下、桜木)】どちらも私が作者ですが、この絵本は『家族じまい』の続きを書くことから発想したわけではありません。始めに編集者から「絵本を書いてみませんか」と提案され、じゃあ何をやりましょうかと考えたときに、母と娘、祖母という親子三代の物語を書きたいと思い、私の母の認知症が進行したときを振り返ることはできるかもしれませんというお返事をしました。絵本という新しい表現媒体で、画家の方と力を合わせて築けるものがあるかもしれないと思うと、ワクワクしたんです。
——初めての絵本ということで、執筆の苦労はありましたか。
【桜木】初稿はボツ(没原稿)になったんです。発展的なボツでしたけれど。これまで子どもに読んでもらうことを意識して書いたことがなかったので、現在56歳の私の感覚で書くと、多くの人に手に取ってもらいにくくなる。自分の気持ちに客観的になることを忘れていて、小説ではそれができるのに、なぜ絵本で文章が短くなるとできなくなるんだろうと……。そういう勉強をさせてもらいました。