御年83歳、生まれは戦中であり、女性は嫁しては夫に従うのが美徳とされた風潮で育った人に、変化を求めても難しい側面はあるだろう。一方で、同じく高齢のバイデン米大統領も過去の言動が批判を受けているが、ちゃんと軌道修正ができているのだから、人による。そもそも、日本では党派を問わず、多くの人々が女性問題に関して穏健リベラルな価値観を持つに至っている。女性問題は党派的な対立ではなく、アップデートできた人々とできなかった人々の違いにすぎない。

合意形成や討議のやり方が変わるべき

「森さんの能力は高い、余人をもって代えがたい」と擁護する意見も多く聞かれる。根回しと交渉力のなせる業だろう。けれども、オリンピックや各種競技の理事会が独裁的でよいのか。ひとりの才能ある個人に任せて異論は封じるやり方では、進歩は望めない。女性の件を脇に置いたとしても、合意形成や討議のやり方が変わるべきときにきていたということだ。

ただ、男女平等の運動について付言しておくと、男女が完全に平等な社会になったときにトップに立つ女性がいわゆる「リベラル」である保証はまったくない。現に欧州でも先駆けて極右政党が連立政権入りしたノルウェーでは、極右政党の顔に女性がずらりと並ぶ。だから性別ばかりが話題になっていること自体、過渡的な事象だということだと理解しておいたほうがいいと思う。

社会がなすべきことは、女性を組織の中でしっかり育てること。そして常に多様性を取り込み、組織自身の力を強化すること。森発言がそのようなプラスの方向性に転じるきっかけになるといいと思う。

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