一方で、日本ではここへきて「60代以上の高齢者等には6月いっぱいで接種を終える(1月25日、産経新聞)」という、いかにも五輪の開催日程を意識した接種スケジュールが浮上した。開催となれば、6月中旬には選手や関係者が各国から日本に上陸してくる。しかし、ワクチン接種が先行する国々でも予定通り進んでいるところはほぼないという状況で、日本だけ順調に進むと楽観的に考えるのは無理がある。

IOCの重鎮は「無観客開催」を示唆

こうした状況をくんだ悲観論が飛び出す中、五輪界の超大物とも言える人物がついに口を開いた。IOC委員で、ワールドアスレティックス(世界陸連、旧国際陸上競技連盟)のセバスチャン・コー会長は、先のタイムズ紙の報道が出るや否や、ロンドンの地元スポーツメディアに「開催するしないのうわさがあれこれ出てくることこそ、トレーニングを進める選手にとって不利益なこと」と発言。「タイムズ紙の記事を即刻、官邸が否定したことは重要」と述べた。

コー氏は2012年のロンドン五輪組織委の委員長だった。コー氏と面談したことがある東京都や五輪開催自治体の関係者も少なくない。

ちなみにコー氏は、旧ソ連のアフガニスタン侵攻を理由に米国や日本がボイコットした、あの1980年モスクワ五輪の陸上競技での金メダリストだ。自身と同年代の欧米各国の選手が五輪の舞台に立てなかった中、英国は出場を強行。コー氏の話が説得力を持つのは、「TOKYOの中止で、今の選手たちに、モスクワ大会に出られなかった選手らが受けたあの苦しみを味わせたくない」という意識が働いているのかもしれない。

2012年7月28日、夕日を背景にシルエットのタワーブリッジとザ・シャード、オリンピック初日に撮影
写真=iStock.com/dynasoar
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コー氏は「(東京五輪が)仮に無観客で開催されることになっても、それに文句を言う人はいないだろう」と発言。バッハ会長もその後追認するような発言を行っている。

「何としても開催したい」シナリオは

では今後、開催を前提に起こり得る筆者の想定をいくつか述べておこう。

まず、いくつかの国が「選手を東京に送ってこない」まま開催に踏み切る可能性だ。自国が鎖国またはそれに近い状況にあるからと、泣く泣くこうした判断に至る国もあるだろう。現在、東京への出場を予定している国と地域は206あるが、これが果たしてどのくらい残るのか。

その他、可能性は低いが、全くないとも言い切れない想定が2つある。

一つは、一部の競技・種目の開催地を分散し、他国での遠隔実施になるケース。コロナの規制上、渡航できないことで、やむなく別会場を設定するというもの。

もう一つは、最終選考ができないことなどを理由に「一部の競技が中止となる」というパターン。各競技によって複雑な選考形態があり、五輪本戦までに終わる見込みがなく、競技を辞退せざるを得ないというものだ。ただし、人気種目の陸上や水泳はここに当てはまらない可能性が高い。