冒頭に「ツカミ」を持ってくることの大切さ
お笑いをどうやってお客さんに見せるかは、ビジネスではプレゼンに当たる部分です。トークは冒頭が命。最初の30秒~1分で人はだいたい興味があるかないかを判断すると言われていますので、伝えたいことを最初に言うのが大事です。ビジネスの世界ではスティーブ・ジョブズのプレゼン術が有名ですが、漫才やコントも同じです。
冒頭で一番大切なのはいわゆる「ツカミ」です。これが抜群にうまいのは、お笑いコンビのサンドウィッチマンさん。「最速でツカミに入る」ことを意識していらっしゃって、ツカミを終えて本題に入り、最初のボケを終えるまでに1分しかかかっていないそうです。これは、番組によってひとつのネタを「3分にしてくれ」「5分にしてくれ」と言われることがあるので編み出した方法なんだとか。
また、サンドウィッチマンさんは、ツカミのためには磨き抜かれた言葉と決めゼリフが重要だとおっしゃっていて、漫才の中のひとつの言葉のために、ああでもないこうでもないと2カ月も3カ月も考えるそうです。
ツカミに関しては、3年連続でM‐1準優勝を飾った漫才師の和牛さんも、最初の30秒を1年、2年かけて仕上げていくという話をされていました。私たちがすんなり漫才やコントの世界に入っていって笑えるのは、こうやって練り上げられた言葉で冒頭からつかまれているからであり、これも「本番力」だと言えるでしょう。
「ズラし」の思考が新しいネタを生む
ビジネスで新しい事業や展開を行う際に使う「ズラし」の考え方をお笑いに取り入れて成功している方も多くいらっしゃいます。ズラしの代表的な方法に「ピボット思考」がありますが、これはバスケットボールで軸足を置き、片足だけを動かす方法のこと。ベタなこと=なじみある設定や枠組みは動かさず、片方だけ動かしてアイディアを探っていくやり方です。
例えば「キングオブコント」で5代目王者となり大ブレイクしたお笑いコンビのバイきんぐさん。売れない時代に他の芸人さんを意識しすぎて、誰も考えたことのないような設定やコントを考えすぎ、お客様の共感を得られない自己満足のネタばかりですべり続けてしまっていたそうです。そこで、「帰省」や「コンビニ」といったベタな設定は動かさず、リアリティの延長でネタを考えていったところ、売れ始めました。
この「ズラし」の思考法は、ネタだけに限りません。例えばチョコレートプラネットさんは、コントに軸足を置きながらものまねをプラスして大成功しましたが、これは「時間・人・場所・方法・金額」のいずれかをズラしてみると思わぬ新しいものが生まれるという「ズラしファイブ」という考え方。定番を超えるために多角的に攻めたり、お客様の新たなニーズを察知したりすることにも有効なんです。