ステマを疑う日本人という国民性の問題も

日本で口紅王子が生まれない2つ目の理由として、日本と中国のインフルエンサーに対する考え方の違いが挙げられるでしょう。

ここ数年で日本国内におけるインフルエンサーの勢いは鈍化しています。日本のインフルエンサーは企業からの広告案件を受けすぎた結果、節操なくいろいろな商品を紹介したことで信頼度が下がってしまいました。

インフルエンサーが増えた結果、次第にPR案件の広告単価が下がり、インフルエンサーは安価な広告案件も受けざるを得ず、フォロワーから「お金をもらってるからこの商品を紹介しているんでしょ?」とそっぽを向かれてしまっているのです。

さらに、近年では広告であることを標榜せずに商品を紹介する「ステマ行為」がインスタグラム内で増えており、インフルエンサーへの信用度が低下しているのもこの問題をより深刻なものにしています。

また、広告を出稿する企業側の視点で言っても、インフルエンサーに頼ることは中国よりもメリットを享受できないものになっています。日本のインフルエンサーのフォロワー数は中国に比べて圧倒的に少ないからです。例えば、元AV女優で、現在は中国で日本のコスメの販売事業を手掛ける起業家の蒼井そらさんのSNSを見てみましょう。彼女のツイッターのフォロワー数は約37万人なのに対し、中国版のツイッターである微博のフォロワー数は約1900万人。その差は圧倒的です。

フォロワー数が少ないという問題と、広告案件単価の低下により、日本ではライブコマースで大きく売り上げを伸ばせる可能性が低いというのが私の考えです。

三崎優太氏近影
提供=扶桑社
三崎優太氏

日本においてネットでモノを売るにはどうしたらいいのか

では、現在日本国内においてネットでモノを売ろうとした場合、どうすればよいでしょうか。

口紅王子のようにライブ配信で商品を紹介するよりも、YouTuberと協業するのが正解だと私は考えます。年々、YouTubeの市場規模は拡大しています。加えてYouTubeは<PR>の表記を広告案件の動画に入れても、最後まで動画を見てくれる視聴者が他のSNSよりも圧倒的に多いのです(一般的にほかのSNSでは、<PR>表記を入れるとフォロワーから見られにくくなる)。

しかし、長期的にはYouTube広告の影響力も低下していくでしょう。一般に、1つのプラットフォームに広告があふれかえると、プラットフォーム自体への信頼感や魅力が落ちやすいからです。すべてのプラットフォームは一過性のものにすぎないのです。

三崎優太『過去は変えられる』(扶桑社)
三崎優太『過去は変えられる』(扶桑社)

これは私自身の経験を根拠にしています。私が2014年にフルーツ青汁を売った頃は、今ではよく見るTwitter広告を出している企業はまれでした。当時の広告単価は現在の10分の1程度で、クリック率もとても高かったのです。現在1万円する広告をなんと1000円で出稿できました。

つまり、広告費が安く、まだ誰も施策を打っていないプラットフォームで広告を出すことが日本国内でネット通販事業を行う上では重要なのです。今回取り上げた口紅王子の件にしても、重要なのはライブ配信というプラットフォームそのものではなく、時代ごとに価値の高いプラットフォームを見極め、そこで仮説と検証を繰り返して先行者利益を得ることです。

売り上げをあげてくれる「王子様」を指をくわえて待つのではなく、自社で「予測力」を持つことこそが売り上げを立てる最大の要因となるのです。

(構成=鈴木俊之)
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