論語の「巧言令色鮮し仁」を今こそ噛みしめるべし
コロナ禍で、ドイツのアンゲラ・メルケル首相、イギリスのボリス・ジョンソン首相、フランスのエマニュエル・マクロン大統領、シンガポールのリー・シェンロン首相といった世界の首脳の多くはビデオメッセージなどを通じて、直接、国民に呼びかけるスタイルをとっている。
記者会見方式では、メッセージを届ける相手である国民とアイコンタクトをとることはできないが、本来は、相手の目を見て伝えるべきものである。
論語の中に「巧言令色鮮し仁(こうげんれいしょくすくなしじん)」という言葉がある。
巧みな言葉を用い、表情をとりつくろって人に気に入られようとする者には、人を思いやる心が欠けているという意味合いだが、残念ながら日本にはこうした価値観を持つ人が少なくない。
菅首相は「言葉よりも、実行である」と信じ、まじめに仕事をし、成果を出すことで国民に報いたいと考えているのかもしれない。しかし、国難において為政者に求められるのは、実行力だけではない。ウィンストン・チャーチル元英首相しかり、フランクリン・ルーズベルト元米大統領しかり、しっかりと国民に向き合い、対話をし、納得させるコミュ力なくして、リーダーシップは発揮しえない。
ボールを投げずに、念力だけでキャッチボールをすることはできない
コミュニケーションはリーダーとしての資質の根幹であり、それをおろそかにするものはリーダーとしての資格がないに等しい。だが、この自覚があるリーダーが経営者も含めて、日本には少ないのも事実だ。
菅首相は自分の信念を強く持ち、特にコミュニケーションに関しては、周囲の提言を聞かないタイプという評判も聞こえてくる。もしかしたら、話し方を変える自信がないのかもしれないが、話し方は才能ではない。正しいやり方さえを学べば、何歳からでも、必ず、簡単に変えられるものだ。
ボールを投げずに、念力だけでキャッチボールをすることはできないし、無作為に投げたい球だけを放られても、受け止めきれない。どういった球、どういった投げ方なら相手のど真ん中に届くのか、頭をひねり、心を通わす地道な努力を続けていくほかないのである。