剛柔一体の理想を体現する存在
「裁く」「切り捨てる」は父性、「護る」「包み込む」「白黒をつけない」は母性です。冨岡と炭治郎を有罪にして禰豆子を殺せという「父性的」な処遇を望む柱たちに対して、唯一、母性的な態度でのぞみ、柔らかい空気感を出していたのが、甘露寺の存在感だったわけです。
ピンク色の髪を持つ甘露寺は、『鬼滅の刃』の中では異例な萌え系キャラ。しかし、華奢に見える甘露寺の肉体は、筋肉密度が常人の8倍という特殊体質で、その力の強さは柱の中でもトップクラス。また、女性特有のバネと柔軟な体を持ち、その肉体から繰り出される技は、音柱の宇髄よりも速いという。さらに、食欲ももの凄く、力士3人よりも食べるというから凄まじい。
一見、萌え系の可愛らしいキャラに見える甘露寺は、剛柔一体の理想を体現し、また女性的な魅力と圧倒的な強さの両方を備え持つ、父性、母性のバランスのとれたキャラクターと言えるのです。
そこに初めて登場する鬼殺隊のトップ、産屋敷耀哉。隊士たちを「私の子供達」と呼ぶ産屋敷は、愛情あふれる人格者として柱や隊士たちからの絶大な信頼を集める。やはり、父性、母性のバランスのとれた人物として登場し、殺伐とした柱合会議を丸く収めるのでした。
4年3カ月でスパッと連載終了
2020年5月、『鬼滅の刃』は最終回を迎え、連載終了となりました。たった4年3カ月で、切れ味良く、スパッと終了しました。作品に人気が出ると出版社がやめさせてくれないのが世の常。何年も延長して、延長して、間延びした作品になる場合も少なくありません。『ONE PIECE』を超える人気作が、当初の構想通りわずか23巻で完結してしまうのは凄いことです。
注目すべきは、作者の吾峠呼世晴先生が「女性」であるという点です。今回の連載終了にあたって、編集部から強烈な連載継続の依頼を受けたはずですが、そこに迎合せずに初心を貫徹したのは、本人が「断ち切る」力を持っていた証拠です。