中国企業の上場廃止や倒産が相次いでいる。「カラ売りファンド」と呼ばれる会社が、不正が生まれやすい中国の土壌に目を付け、調査レポートを発表し株価を暴落させているためだ。「中国企業の殺し屋」の異名をとる米国マディ・ウォーターズの調査方法を、作家の黒木亮氏が解説する——。(第2回/全2回)
ニューヨークで講演する「マディ・ウォーターズ」の創始者、カーソン・ブロック氏
写真=ロイター/アフロ
ニューヨークで講演する「マディ・ウォーターズ」の創始者、カーソン・ブロック氏

名声を一躍高めた“激闘”

マディ・ウォーターズは、シカゴ・ケント法科大学院を卒業し、上海で弁護士や倉庫会社の経営者を務めた米国人、カーソン・ブロックが2010年にサンフランシスコで立ち上げたカラ売り専業ファンドだ。当時ブロックは弱冠32歳。ファンド名は、中国語の「渾水摸魚こんすいばくぎょ」(水をかき混ぜ、魚が混乱しているときにる)という慣用句の渾水(muddy water)に由来する。

同ファンドの名声を一気に高めたのが、2011年のサイノ・フォレスト(嘉漢林業国際、本社カナダ・オンタリオ州)との“激闘”だ。

サイノ・フォレストは、裏口上場によってカナダのトロント証券取引所に上場していた香港の会社で、中国で商業植林事業を行っていた。売り上げは主に紙などの原料になる木材チップの販売で、ピーク時の株式時価総額は約60億カナダドル(約5222億円=2011年4月4日)に達していた。

2011年6月2日、マディ・ウォーターズは、「サイノ・フォレストは資産と売り上げを不正に膨らませている。同社の資金調達は何十億ドルものネズミ講だ」という39ページに及ぶ売り推奨レポートを発表した。レポートは同社が関係会社と循環取引(売買の相互発注)を行って、売り上げや利益をかさ上げしていることを証拠資料とともに示した。これにより20カナダドル前後だった同社の株価は3週間後には2カナダドル前後まで暴落した。

警察も動いたがCEOは中国に逃亡

サイノ・フォレストは即座に反論。「マディ・ウォーターズの劇場的アプローチは自己の利益のためのものに他ならない。投資家は彼らのレポートに特別な警戒を払う必要がある」と訴え、独立調査委員会を立ち上げ、監査法人のプライスウォーターハウスクーパース(PwC)に調査を委嘱した。

一方、マディ・ウォーターズは第2弾と第3弾のレポートを発表し、疑惑を追及した。その後、資産運用会社のウエリントン・マネジメントやシンガポールの投資グループ、リチャード・チャンドラーが同社株を追加取得したため、7月の終わりには株価は8カナダドル程度まで戻した。

しかし、独立調査委員会の調査結果発表が遅れに遅れ、8月にはオンタリオ州の証券取引委員会がサイノ・フォレスト株を15日間の取引停止にし、詐欺の疑いで調査を開始したため、同社の会長兼CEOだったアレン・チャン(香港出身)が辞任した。

11月にカナダ連邦警察が同社の不正疑惑の捜査に着手し、四半期決算の発表が二度にわたって延期されるに至り、株価は再び暴落した。

2012年3月30日、サイノ・フォレストはカナダ破産法の適用を申請し、破綻した。2017年7月にはオンタリオ証券取引委員会が、同社および、アレン・チャンを含む同社の4人による詐欺を認定し、翌年3月にはカナダの裁判所がチャンに対して26億3500万ドルの損害賠償支払いを命じた。しかし、チャンらは中国に逃亡したままである。