菅義偉首相の登場で、政治と官僚の関係はどう変化したのか。ジャーナリストの財部誠一氏は「菅首相の人事権を盾にした強権ぶりが突出し、あたかも霞が関の官僚たちが萎縮しているという報道が目立つ。しかし、彼らはメディアが騒ぐほどの弱者でもなければバカでもない」という——。
現職の官房長官が「雑誌で人生相談」という異例
まさか9月に総理になるとは誰も思っていなかった今年の春、菅官房長官が『プレジデント』誌に人生相談の連載を始め、話題になった。自分も若かりし頃、新聞の人生相談のコラムを読むのが好きだったという。
自らの体験を通じて相談者に親身になって答える文章からは、連日の記者会見で見せてきた官房長官の厳しい顔つきとは違う人間味が感じられた。いやそれ以上に、そもそも現職の官房長官が雑誌で人生相談の連載をすること自体が異例である。連載を始めた直後に菅官房長官に会う機会があった。
「なぜプレジデントで人生相談など始めたのか」
尋ねてみよう思っていた矢先に、菅官房長官が「じつはこんなことを始めた」といって嬉しそうに連載のコピーを見せられた。自慢するネタはいくらでもあるだろうに、殊の外、嬉しそうであった。政治家という目指すべき道も見えていなかった悩み多き時代に、新聞の人生相談のコラムが励みになったから、その恩返しのようなものだという答えだった。そこに嘘はないと思う。
自民党の長い歴史の中でも親譲りの「地盤、看板、カバン」のまったくない非世襲議員が総理総裁になるのは約30年ぶりだ。徒手空拳で総理にまで成りあがった菅義偉という政治家はやはり特別な存在だ。人情の機微にふれる一面と、強面の凄みが同居しているのだが、一般的には後者のイメージが強い。
典型的な例は人事権を盾にした菅の霞が関支配だろう。