「官僚はみな菅さんのことばかり気にしている」

「官僚は誰も安倍さんなどみていない。みな菅さんのことばかり気にしている」と官房長官時代もよく言われたものだ。それがいまや国家の最高権力者となったのだから、その“威光”は尋常ならざるものがある。当然の帰結として、それを不満に思う官僚やOBからはその強権ぶりがマスメディアに流れてくる。

暗雲が立ち込める国会議事堂
写真=iStock.com/kanzilyou
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2020年9月16日に菅内閣が発足する数日前から、菅に左遷させられた官僚の恨み節が複数のメディアで紹介された。

菅官房長官に意見して“左遷”された元総務官僚が実名告発『役人を押さえつけることがリーダーシップと思っている』」(AERA dot. 2020年9月10日)、「『菅義偉さん、やっぱりあなたは間違っている』…“左遷”された総務省元局長が実名告発【全文公開】」(文春オンライン 2020年9月16日)がある。

事実、菅は第1次安倍政権で総務大臣となりふるさと納税制度を導入する際にも、また官房長官時代にも総務省の局長を左遷している。飛ばされた本人が実名で告発するのだから説得力がある。だがこの元総務局長に対して霞が関から同情の声は聞こえてこない。それどころか取材をしてみると他省庁の局長クラスからは芳しくない評判が伝わってきた。菅に近いある某省の局長は「左遷されて当然の役人だった」という。

現役の幹部官僚の意外な本音

以下は拙著『冷徹と誠実 令和の平民宰相 菅義偉論』からの抜粋だ。

「実名告白した元総務官僚Hさんは自己正当化のコメントを多数していますが、事実とはかなり違います。菅長官の指示は、寄付先の自治体への申請と、地元の税務署への電子申告と二度手間になっているのは使い勝手が悪すぎるから『ワンストップ化せよ』というものでした。ところが彼はツーステップの現状を何も改めず、さも『ワンストップ化』したかのようにごまかす画づくりをした資料を提出したり、自民党税制調査会の『検討資料』にも一見前向きながらじつは先送りしてしまおうとしたり、これだけでも十分更迭に値する所業ですが、それだけではなかったようです」

この局長は菅との関わりが深いだけに、贔屓ひいきの引き倒しというか、忖度そんたく感情がまったくないとは言い難い。そこで菅との接点が少ない他省庁のある現役局長にも尋ねてみた。すると、まったく角度の違う返事が返ってきた。

「マスコミは面白おかしく取り上げますからね。この総務官の元局長だけではなく、退官後に政権批判を繰り返す元文部次官とかいますけど、現役官僚はみな呆れていますよ。房長官時代から菅さんが恐れられていたのは事実ですが、ある意味もう慣れっこになってしまった面もあるのです。役人は局長まで昇進すると、長年自分の温めてきた自分の政策ができるぞと思える。それをまっすぐに菅さんにぶつけるのをためらうことはない。少なくとも私はそう考えています」