上昇気流に乗れたJALの戦略

もっとも株式がバリュー株に位置付けられる企業を別角度から眺めると「勝ち組」と「負け組」に分けることができる。勝ち組の筆頭は日本航空(JAL)だろう。

11月6日、日航は公募増資などで最大1680億円を調達すると発表した。公募増資は2006年以来。調達資金のうち800億円は欧州エアバス製A350型機の購入代金に、150億円は全額を出資するLCC(格安航空会社)のジップエア・トーキョー、50%出資するジェットスター・ジャパン、少額出資する春秋航空日本の強化に充当するとした。このほか空港の設備更新に50億円を充て、残る680億円は有利子負債の削減に使う。

日航の発行済み株式総数は約3億3700万株。公募増資などで約1億株を新規に発行、2割以上希薄化されることになったため、週明け9日の東京株式市場で同社株は前週末比約11%下落した。

しかし日航はバリュー株が物色されているタイミングで公募増資を発表したため、希薄化に伴う下落を帳消しにした。6日に木藤祐一郎財務部長は「新たに1億株を発行するため、既存株主に相当迷惑をかける可能性がある」としたが、どうやら詫びる必要はなくなったようだ。

僥倖はそればかりではない。18日には公募による新株発行価格を発表しているが、これが1株1916円、調達総額は6日の増資発表時よりも146億円上乗せされ、最大1826億円となった。上乗せ分の使い道は明らかにしていないが、有利子負債の返済に充てれば、21年3月期に約300億円、22年3月期と23年3月期にそれぞれ500億円といわれている利払い負担を減らすことができる。

一方、過去最悪の決算を迎えるANAは…

この日航の公募増資は株式市場関係者にとって意外な出来事と受け止められている。同業で増資の必要性があったのは、むしろANAホールディングス(HD)だったからだ。

羽田空港から飛び立つANAのボーイング777-200ER機
写真=iStock.com/winhorse
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10月下旬に開かれた記者会見で、同社は2021年3月期の連結最終損益が5100億円の赤字になる見通しだと発表した。赤字額の見通しは2400億~2700億円とした日航の約2倍だ。

過去最悪の決算が見えてきたことでANAHDは同日、構造改革策を発表している。大型機を中心に33機を退役させるほか、エアバス「A380」やボーイング「777」の受け取りを延期する。一般社員の月給を20年ぶりに減らし、管理職の賃金は最大15%カット、一時金も減額する。400人以上を家電量販店のノジマや高級スーパーの成城石井などに出向させ、2500人規模の採用を見送る。これにより今期は1500億円、来期は2500億円のコストを削減するとした。