「現代の国際社会の状況は第一次世界大戦前ととてもよく似ている」。『日本人のための第一次世界大戦史』(角川ソフィア文庫)を書いた作家の板谷敏彦氏はそう指摘する。さらに板谷氏は「だからこそ、当時の歴史からの学びは大きい」と訴える——。
1914年7月31日、ドイツ・ベルリン市内で、戦争勃発を告げる号外が配られる様子。この翌日、ドイツはロシアに宣戦布告。8月3日にはフランス、4日にはイギリスと戦争状態に突入する。
写真=dpa/時事通信フォト
1914年7月31日、ドイツ・ベルリン市内で、戦争勃発を告げる号外が配られる様子。この翌日、ドイツはロシアに宣戦布告。8月3日にはフランス、4日にはイギリスと戦争状態に突入する。

先進国には「後進国の勃興」によって奪われる職がある

何故「今」第一次世界大戦を知る必要があるのでしょうか。それは、現代の国際社会の状況は第一次世界大戦前と、とてもよく似ているからです。

実は19世紀後半も現代と同様でした、蒸気機関などの技術革新によって交通機関が発達し、貿易が盛んになりグローバリゼーション(第一次グローバリゼーション)が進展しました。これは、ちょうど日本が開国した頃に重なります。

それぞれの国が得意なものを作って貿易を盛んにすれば世界中の人々が恩恵を受ける、というデヴィット・リカードの貿易における比較優位の概念がまさに実現したかのように見えた時期でした。しかしグローバリゼーションは、産業革命に遅れた国に恩恵をもたらす一方で各国国内での貧富の差を拡大していきました。先進国には後進国の勃興によって奪われる職もあるのです。

戦争で平準化された格差が再び拡大

この格差は第一次、第二次の2つの世界大戦で一旦は平準化されました。国力の総てをかけた戦争では富裕層の過剰な冨も徴収され、さらに戦後の民主化、社会主義化が冨の平準化を促しました。

ところが近年、コンテナ船による海運の合理化、規制緩和やジャンボ・ジェットの出現による航空運賃の低廉化、インターネットによる通信コストの劇的な低下、東西冷戦の終焉などによりグローバリゼーション(第二次グローバリゼーション)が進展すると、貧富の差は再び拡大して、今や抜き差しならぬものになっています。

現代は技術革新によるグローバリゼーションの進展とそれに伴う貧富の差の拡大、貧しい者たちに蓄積される不満、という点で第一次世界大戦開戦前と非常に似た状況にあるといえます。米国大統領選におけるラスト・ベルト地帯、トランプ支持者の増大、日本や欧州の右傾化などはこの現象と無縁ではありません。だからこそ今、第一次グローバリゼーションから第一次世界大戦に至る過程を知るべきなのです。